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「ほんと、詐欺だよな」
昼休み、食事を終え手慰みにバスケットボールを回しながら別のクラスであるはずの早川湊(はやかわみなと)がぼやくように言っている。
うっとおしいなぁ、そんなこと言ってないでさっさとバスケでもしに行けばいいのに。
日下部加菜絵(くさかべかなえ)は、離れた場所にいる湊をジロリとにらみつけた。そんな加菜絵の周りにはたくさんの女子が集まり、異様な盛り上がりを見せている。
「ありがとう加菜絵。この前加工してくれた写真めっちゃ可愛かったー。SNSにアップしたらめっちゃバズって、まじ驚いたから」
「え~ズルい! 次は私もやって」
請われるまま加菜絵がスマホを目まぐるしい速度で操作するのを、息を呑んで見守る取り巻きの女子たち。「できた」と言って加菜絵がスマホを机の上に置くと、「おー」と大きな歓声が上がった。
皆が覗き込むようにして見ると、そこには原形を留めないほど美しくなった姿が映っている。
そう、加菜絵は写真アプリの達人なのである。
「理沙はクール系が似合うから、コントラスト上げてパッキリさせて……彩度も青み強くしたほうがいいかな。
逆に佳代子は、ほんわかさせた方が絶対可愛いから、コントラスト下げて彩度上げてポップにするか……あ、この写真なら色温度上げてレトロっぽくするのもあり寄りのありじゃない?」
加菜絵のアドバイスをふんふんと頷きながら聞いている女子の目は、尊敬の念でキラキラと輝いている。
「えーこれやばい、めっちゃ可愛い! めっちゃ映える~。
私がやったら、いかにもアプリ使いましたってなっちゃうし」
「こんなの秒で可愛くなるから」
加菜絵はニカっと笑う。その言葉に周りからは一層大きな歓声が上がり、中にはふざけて拝みだす者までいた。教祖かよと突っ込みたくなるような状況だ。
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