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彼女と自分だけが風景から切り取られた様に、他のなにもかもが気にならなくなり、足は自然と動いた。
「あの、これ」
暗示に掛かっているのだろうか、普段なら内向的な自分から他人に語りかける事はしないのに。そんな事を頭の片隅に思いつつ、拾い上げた写真を渡す。
「ありがとう」
ふわりと柔らかに微笑まれて、心臓が高鳴っていると、ようやく気付いた。
(あ、これ一目惚れって奴)
自身の鼓動が鼓膜に反響して煩い。顔は紅潮しているだろうか。声は震えていなかっただろうか。
でも、それより。
(この女性ともう少し話していたい)
周りの誰かしらがこちらを窺う様に見ているのが分かるけれど、最早そんなものは気にしてなどいられない。
女性は視線を外す素振りもなく、微笑みを唇に乗せたまま小首を傾げる。
まるで誘いを待つ様に。
「何かのサークルですか。僕一回生なのですけど、貴女は」
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