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いつまでこうしていただろうか。
気が付けば水に濡れる感覚はなくなり、体もいつしか乾いていた。日は未だ隠れているが、昼を過ぎていることは何となく察した。
私に動く力は、ほぼ残っていない
それでも喉の渇きからか、またあの渓流に向かわないと気が済まなかった。
覚束無い足取りで昨日の道を辿る。川に着く頃には私の体はまた露に濡れた。そして、川は、私の心も濡らしてきた。
一日で私の恋した川の面影は消えていた。
雨で増水した川はタチの悪い与太者になっている。
私は愕然と、この光景を見詰める。恐怖すら感じていた。水を叩きつける音が反響し、私の頭を激しく揺さぶる。
水が飲めないことに対する悲嘆ではない。もっと大切なものが、私の中に生まれかけていたなにかが、濁流に削り流された気がした。
あまりの恐怖に、吠えずにはいられなかった。
雲の向こうで落陽が私の声から逃げるように山に隠れていく。
濁流を目前に、私の体はまた使い物にならなくなる。ただ、今度は体のせいだけではない。
望みは、なくなっていた。
喉の渇き、腹の減りでさえ、今の私を動かす動機には弱い。
濁流は未だ私の前を哮り立ち、大地を震わす。飛沫が全身を湿らす。いったい私はどうなるのだろう。
実は、わかっていた。行き先は一つだった。そして、その行き先を拒むことも私には無意味に感じてならなかった。
ふと、私の体を観察する。体はたった一日で痩せ曝えてしまっている。皮だけになった足先に、肋の見えそうな胸。
弱々しくなったものだと自らを蔑む。
忘れたい、
日は沈んだばかりで、眠るにはまだ朱みが残っていたが気にならなかった。
川から少し離れ、大きなネコジャラシの生い茂る中で丸くなる。
川の空気を含んだ温風が、早く現実から離れたい私の背中を押した。
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