記憶と記録

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 檜山華は昔から嫌いなことがある。それは、写真に写ることだ。 今日は高校の卒業式。 本来なら友人や恩師と別れを惜しみ、写真を撮るものが一般的である。 「聞いたぞ檜山、また写真を拒否したんだってな。」 どこからともなく現れるや否や、大声を発する男、立花剛に驚いた。 卒業式だというのに相変わらずの様子だ。 「別にいいでしょ。写真、嫌いなんだもの」 檜山華が写真を異常に嫌がることは、多くの同級生の間で認知されている。 文化祭や体育祭、修学旅行など様々な行事での写真を拒んできた。 彼女が写っている写真といえば、学校側で強制的に撮ることとなっているものに限られる。 「なあ、最後くらい一緒に撮ろうぜ」 「嫌よ」 「撮ろう」 「嫌」 「頼む」 「嫌だってば」 この男、とてつもなくしつこい。昔からずっとだ。 立花とは幼稚園からの腐れ縁だ。 よく写真に写りたがるし、一緒に写真を撮りたがる。 単なる目立ちたがり屋であった。 私には、なぜそんなに写真に写りたがるかわからない。 写真というものは、残り続ける。良くも悪くも・・・ 「大学は別々だし、なかなか会えなくなるだろ。記念として1枚だけでも撮ろうぜ」 「ねぇ、なんでそんなに写真が好きなの?」 「なんでって・・・、そりゃあ、思い出として残るからとか?」 「なんで疑問形なのよ」 この男は覚えてないかもしれないが、実は昔、一度だけ一緒に写真を撮ったことがある。 その頃は多少の羞恥心はあったものの、そこまで写真に写ることに対しての抵抗感はなかった。 どうして立花と写真を撮ったのか、その時のことはよく覚えていないが、写真を撮った直後のことはよく覚えている。 立花に好意を寄せていた女子からの嫌がらせだ。 数人の女子から陰口や仲間外れを受けた。 今に思えば、写真一つでなぜあんな目にあわなければならなかったのか、と怒りがこみあげてくる。 当時は、本当に苦しかった。 こんな目にあうなら、写真なんて撮らなくていい。 それ以来、写真に写ることを極端に避けるようになってしまった。 立花は口を開いた。 「写真を好きになったきっかけなら覚えてる」 「・・・、どんなの?」 「好きな子との写真。たった一回だけだけど、一緒に写真を撮れたことがすごく嬉しかったんだ。」 それって・・・ 「ずっと昔から好きだ、檜山」 本当は、あの時、初めて写真を撮った時、すごく嬉しかった。 本当は、好きな人と一緒に写真に撮った写真を否定されたのが悲しかった。 本当は、立花と写真を・・・
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