捨てられないもの

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捨てられないもの

彼女と別れて、どれくらいたつのだろう。 彼女が部屋に置いていったものは、ほとんど捨てた。 彼女からもらったものも、全て捨てた。 でも、、、 この写真と指輪だけは、どうしても捨てられない。 写真自体は、何てことない。 別に記念日に撮ったわけでもない。 ふたりで公園に行った時に、ふたりで撮った。 ありきたりな写真。 でも、彼女が書き込んだ文字。 ふたりで書いた約束。 絶対、幸せにする by ゆうじ ずっと一緒にいる by みさ なんで、書いたかな、、、 守れないなら、なんで書いたんだろう。 俺は、彼女を幸せにするどころか、泣かせた。 辛い思いをさせて、苦しめて、泣かせた。 自分の思いばかりで、彼女も同じ思いだと思い込んで、、、 涙が出てきた。 捨てられない写真の上に捨てられない指輪を置いた。 ふたを開け、写真の上に置かれた指輪が、月の光に照らされて、輝いていた。 まるで、ふたりを祝福するかのように、、、 涙が止まらなくなった。 俺は、ふと窓の方に歩いていった。 バルコニーから、空を見上げた。 そこには、あの日と同じような、大きな満月があった。 まるで、俺を呼んでいるかのように、魅惑的に輝いている。 その満月を、しばらくの間、眺めていた。 そして、俺は飛んだ。 全てを忘れたくて、、、 全てを忘れてほしくて、、、 全てを消してしまいたくて、、、 俺は飛んだ。 飛んでいるときに、俺は最大のミスを犯した事に気づいた。 なぜ、写真と指輪を残してきてしまったのだろう。 なぜ、捨てなかったのだろう。 俺はまた、美紗を苦しめる事になるのだろうか? きっと苦しめてしまうだろうな。 このまま俺が死ねば、噂として、美紗の耳に届いてしまう。 死にたくない。 死ぬ気もなかった。 ただ、飛びたくなった。 でも、飛んでしまった。 10階の、俺の部屋から、、、 飛んでしまった。 美紗、、、 ごめん、、、 ほんとうに、愛してる。 でも、、、 ガサッ!! 何か刺さった!! ドサッ!! 痛い!! ハハッ!! 間抜けだな。 植え込みに引っ掛かるなんて、考えもしなかった。 でも、よかった。 美紗を苦しめる事にならなくて、、、 いてー!! 起き上がれない。 しばらくはこのままかな、、、 見上げた空には、大きな満月があった。 笑いかけるように、、、 話しかけるように、、、 しばらくして、俺は起き上がることが出来た。 そして、部屋に戻り、写真と指輪を、引き出しの奥にしまった。 あれから、どれくらいたつのだろう。 引き出しの奥には、あの写真と指輪が、静かに眠っている。
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