メッセージフォトムービー

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メッセージフォトムービー

 小学生の頃の同級生、明子さんが結婚するらしい。おめでたいことである。そんなわけだから、小池さんが「余興でサプライズフォトムービーを流すつもりだから、みんなお祝いのメッセージを紙に書いて写真に撮って送ってください」とグループラインで送ってきた。それほど仲良くなかったものの、義理はあるのだろうからと引き受けた。というか、断られるなど思っていないような文面だったので引き受けるしかなかったのだ。その日のうちに自由帳を買ってきて、色付きの水性ペンでお祝いの言葉を書きなぐり、その日のうちに夫に頼んで写真を撮ってもらった。小池さんは「はやいねえ」と驚いてくれた。「ありがとう」とも言ってくれた。そこで私はもうその結婚式の話は忘れてしまったのだが、4日後、小池さんから個人のラインが届いた。 「美和子の連絡先知らない?」 ああ、確かに同級生グループラインに美和子はいなかったなと思い当たる。 知ってるよ、とすぐに返信した。私は美和子とは仲が良い。彼女の身内だけの結婚式でスピーチをしたくらいだ。  小池さん、美和子にもメッセージを頼むつもりかな、あの子引き受けるだろうか。けれど小池さんは私の想像とは違った文章を送ってきた。 「明日、時間作ってくれない? ちょっと会って話したいことがあるの」 私は少し考えたが、小池さんがそんなことを言い出すのは初めてだったのでよっぽどのことだろうと思い、了承したのだった。 翌日、私と小池さんは待ち合わせた喫茶店で向かい合っていた。ランチタイムを微妙に外した時間の店内は空いていて、柔らかなオルゴール調のクラシックが流れている。小池さんはコーヒーを一口飲むと、大きめのカバンから茶色い封筒を取り出した。 「これなあに?」 「中を見てほしいの」  小池さんは眉間に皺を寄せていった。何かを堪えるように唇を引き結ぶ。子供のころのつやのある黒髪とは違う茶色いショートカットの髪がぼさぼさで傷んでいるように見えた。顔も青白く、生気がない。数年前に会ったときにはもっと身なりに気を使っていたはずだけど。いぶかしく思いながらも、私は封筒を手にした。もしかしたらこれは浮気の証拠写真かもしれないなどと下世話なことを考える。小池さんの彼氏と美和子とのツーショットとか…… 封筒から出てきたのは、想像通り写真だった。だけどそれはなにかの証拠写真などではなく、見覚えのある校舎の写真だった。わが母校の小学校だ。百日紅の木が一本ひょろりと立っていて、その後ろに何も揚がっていない掲揚台と、灰色の校舎。 「学校だねえ」
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