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スーパーマーケットにある、お肉コーナーの紅一点。
赤く輝くそのシール『半額』をめがけて、勢いよく手を伸ばす。
スカッ!
取りそこなった。
横からしなやかな黒い影が伸びてきて、半額の札がついた豚肉肩切り落としのパックをかっさらっていったからだ。
あぁあぁぁぁぁぁ!
今月残り一日、野菜だけで過ごせというのか!?
我が家のお肉を奪った、憎き仇の顔を拝む。
すると、そこには。
「お義母さま!?」
義母は、誇らしげに豚肉肩切り落としのパックを買い物かごに入れた。
「まだまだ修行が足りなくてよ」
ちらりと微笑をひらめかせ歩み去ってゆく義母の背中は、ある種の貫禄さえ感じさせる。
まるで鮮魚コーナーの小魚たちまでも、尊敬のまなざしで彼女を見送っているかのようだ。
スーパーマーケットの午後五時。
世の女たちは毎日のように、重要かつ些細な、負けられない戦いを繰り広げているのである。
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