0人が本棚に入れています
本棚に追加
・うつる。
「……ねー、莉子」
右手でサンドイッチを持ちながら、シャープペンシルを走らせる。
次の授業で提出しなければいけない課題の存在をすっかり忘れていて、とりあえず昼休みの今、こうして頑張っている最中なのだけれど、多分、というか絶対終わらない気がする。
でも、白紙で提出するよりは、文字が書いてある方がいくらかマシだろう。
サンドイッチをくわえる。
と、そこで、目の前で退屈そうに座っている友人が、また「莉子ってば」とわたしの名前を呼んだ。
「……へい、お客さん。わたしは今、課題の真っ最中ですよ」
「じゃあ、それ手伝ってあげるから。とりあえずわたしの質問に答えなされ」
「あい?」
ペンを止めて、見慣れた友人の顔を見る。
すると、なにやら妙な面持ちで、「これ、誰」と、わたしのスマートフォンの裏面に貼ってある『それ』を指先でつついてきた。
「あ、うん」わたしは適当に相づちをうって、また課題に視線を落とす。
「じゃなくて」友人はわたしに、ずい、と顔を近づけた。
「これ、誰」
「わたし。この前のイブの日に撮った写真。かわいく写ってるでしょ。ピース」
「じゃあ、そのかわいい莉子ちゃんの隣に写っているのは誰かな?」
「ああ、うん。
……あ、これ食べる? ツナサンド」
言いながら、持っていたサンドイッチを友人に向ける。
友人は、それを2回、3回ぱくついた後、むしゃむしゃしてから、ようやく、「いいなあー」と間延びした声を上げた。
そのまま、わたしの机から課題のプリントを1枚取り上げて、何を言うでもなく、黙々とやりはじめてくれる。
もくもく、もくもく、もくもく。
言うつもりはなかったのだけれど、わたしは思わず、いいだろー、と笑った。
最初のコメントを投稿しよう!