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Round1
その猫たちの存在に初めて気づいたのは、小春日和の暖かい日だったと思う。
駅に行く途中の静かな住宅街、その一番端に古い洋館があった。
青味がかった灰色の外壁には、黒い煉瓦がアクセントとして何列も並べて埋め込まれ、屋根の近くには足の裏をデフォルメした、可愛らしい彫刻が幾つも施されている。洋館が造られたのは昭和の初めの頃だという。
そこは代々、医者の家。今は内科のお医者さんが住んでいる。けれども、初代は皮膚科だったようだ。
足の裏の飾りはその名残りで、皮膚科の医者だから足の裏(つまり水虫)という、昔の人のセンスと遊び心には全く敬服してしまう。
当時は洋館の中で診療もしていたのだろうが、今は居住専用になっている。
細い路地を挟んだ隣には、後に建てられた内科医院の建物があり、さまざまな年代の患者たちが、ガラスの扉を開けて入って行く。
モルタル塗装の塀と、その内側から茂る生垣で強固に囲まれた洋館は、平坦な住宅街の中で、そこだけが道路よりも一段高い場所に建っていた。
生垣の木々のせいで、家の内部はほとんど見えない。開いた門のところから、僅かに庭が垣間見える程度だ。
玄関に続く真っすぐな階段と庭に置かれた、おしゃれな白い椅子、テーブル。それから、レースのカーテンで覆われた古い窓。
塀といい、生垣といい、外部からは完全に遮断されていて、お医者さんのおうちのイメージとしては、さもありなんという感じの重厚で威厳のある、密やかな『お屋敷』だった。
その洋館の塀に時々、数匹の猫たちが乗っかっているのを私は見かけるようになったのだ。
洋館に猫――!
レトロ建築と猫が大好物の私は、その素敵な組み合わせにうきうきしながら、お医者さんちの前の道を通るようになった。
本来は、もう一筋北側の道を通って駅に行くのだが、たとえ少し遠回りになっても、やはりその貴重な、かつ和める光景を眺めたかったのだ。
猫たちは常に二、三匹ぐらい、塀の上でのんびりとくつろいでいたが、その二、三匹は常にメンバーが入れ替わっていた。
黒猫と白猫とサバ猫だったり、黒猫二匹だったり、シャム猫雑種とサバ猫だったり、あるいは長毛の大きな黒猫と白猫と白黒だったり。
一体全部で何匹いるのか。
とにかく、このお医者さんのおうちには猫がたくさん飼われていて、その猫たちは飼い主の家の塀の上で、平和に日向ぼっこをして過ごしている。猫好きの飼い主の大きな愛に包まれて。
当然私はそう信じて、疑いもしなかった。
ところが――。
私の思い込みは、容赦なく打ち砕かれることになった。
すぐに判明したのだ。その猫たちが、洋館のお医者さんちの飼い猫ではないことが。
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