Plologue

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 夕闇が濃くなっていくほど、光が増したようにその存在を際立たせる。そして、信号が赤になった途端、四方から押し寄せる人波が止まる。 日夜映像を流し続ける大型屋外ビジョンから 親友の大好きなバンド、RE:MIX《リ・ミック》のミュージックビデオが流れ出すと、その瞬間、約三千人といわれる視線が一斉に向く。 見上げる困惑顔が一瞬で驚きの表情に変わり、くるりと視線を巡らす。 この一角を囲む半数以上の画面に彼らの姿が映し出されてるから、その場が彼らの色に染まった。 喚声・奇声・叫声・歓声・嘆声…… 湧き上がる声・声・声。連続シャッター音が聞こえてきそうな写真の切り替わり、みんなが映像に釘付けで、甘いハスキーボイスに酔いしれる者もいて、響き渡る声に足元が揺れる。 信号と信号の間隔は約二分。 四分三十秒、みんなを渦に巻き込み、まるでハロウィンの日のように街を湧かせた。 壮観な光景だとは思う。 けど、別の意味で怖くて脚が震える。 そして大きくCDジャケットが映ると、 『あっ!りあだっ!』 親友の田中千秋(たなか ちあき)が叫んだ。と同時に画面に 【人形の(ハート)も動かす…】 と文字が流れ出した。 『違う。あれはマリアだ』 放たれた低い声に、おもわず顔が釣られる。 ワイルド系のおじさんの怖い顔に、顔が引きつるのが俐亜は自分でも分かった。
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