Plologue

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『今日からは水嶋俐亜(みずしま りあ)じゃなく、モデルのマリアだ』 『……』 『自覚を持て』 『……』 『カメラの前ではマリアになりきれ』 『………』 『ミュージシャンなら少し羽目を外してもいい。(うた)で惹きつけられる。だが、モデルはイメージが大事だ』 大手芸能事務所ジェムストーンの中西の言葉を、ただ俐亜は黙って聞いていた。 【触れれば壊れそうな繊細なガラス細工の人形】 それがマリアのイメージらしい。 『この業界、親がいない奴なんて大勢いる。とんでもない親ならいない方がましだ。だが、お前は幸せだよ。優しい異母兄(にい)さんがいる』 『……』 『それに恵まれてる。容姿もだが、お前を見てると周りにいた奴が良かったんだろうなぁ…』 『………』 『初めて見た時、どこのお嬢様が来たと思った』 続く中西の話も、ただ黙って聞いていた。 『とりあえず、五年。契約中は問題起こすなよ』 『……はい』 緊張しながらも俐亜は答える。 千秋に騙されて連れていかれた撮影現場。彼女の兄は雑誌・書籍・広告・ウエブなど様々な媒体で商業写真を撮る、今注目されているカメラマンだった。 業界なんて華やかな世界に興味はなかった。ただ、兄一人に苦労をさせるのは心苦しかっただけ。だから俐亜『はい』と答えたのだ。
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