310人が本棚に入れています
本棚に追加
/439ページ
『今日からは水嶋俐亜じゃなく、モデルのマリアだ』
『……』
『自覚を持て』
『……』
『カメラの前ではマリアになりきれ』
『………』
『ミュージシャンなら少し羽目を外してもいい。曲で惹きつけられる。だが、モデルはイメージが大事だ』
大手芸能事務所ジェムストーンの中西の言葉を、ただ俐亜は黙って聞いていた。
【触れれば壊れそうな繊細なガラス細工の人形】
それがマリアのイメージらしい。
『この業界、親がいない奴なんて大勢いる。とんでもない親ならいない方がましだ。だが、お前は幸せだよ。優しい異母兄さんがいる』
『……』
『それに恵まれてる。容姿もだが、お前を見てると周りにいた奴が良かったんだろうなぁ…』
『………』
『初めて見た時、どこのお嬢様が来たと思った』
続く中西の話も、ただ黙って聞いていた。
『とりあえず、五年。契約中は問題起こすなよ』
『……はい』
緊張しながらも俐亜は答える。
千秋に騙されて連れていかれた撮影現場。彼女の兄は雑誌・書籍・広告・ウエブなど様々な媒体で商業写真を撮る、今注目されているカメラマンだった。
業界なんて華やかな世界に興味はなかった。ただ、兄一人に苦労をさせるのは心苦しかっただけ。だから俐亜『はい』と答えたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!