玖:夜空に咲く華

6/11
前へ
/210ページ
次へ
************************ 楽しい非日常は、時間の流れ方もいつもとは違う。あっという間に日は落ち、年に一度のお祭り騒ぎは終わりを迎えようとしていた。 「あーあ、結局1日働いて終わったな。」 日が暮れるのもずいぶん早くなった。グラウンドから僅かに届く光だけがぼんやりと辺りを照らす静かな屋上で、千歳は残念そうに言ってぐぅっと大きく伸びをした。 「おれも…。けど、千歳は準備サボってた分だろ。おれは準備もがっつり参加したのにな…。」 そう呟くと千歳はおれの方を向いて肩をすくめた。 「おれから逃げる口実のために、やろ。」 「………う。でも仕事はちゃんとしたし。っていうか根に持つなよ。」 「根に持つっていうより拗ねてるんや。天音の和装ももっと見たかったし、和菓子も食いたかったのに…。あと、うちのお化け屋敷にも来てほしかった~。」 そう言う千歳の表情は暗がりでもわかるくらいのしかめ面で、その珍しい姿におれは思わず笑ってしまう。 「おれも行きたかったけど、まぁこうして今は合流できてるんだしいいんじゃないか?うちの学祭、後夜祭もけっこう大掛かりだからな。」 そう言って千歳を宥めていると、眼下のグラウンドから音楽が聴こえてきた。自由参加の後夜祭は、ダンスや光のアートなどの催し物がいくつかあって、最後には打ち上げ花火が上がる。これは近所の人たちも招待しているから、毎年街ぐるみのちょっとしたお祭りみたいになっている。千歳はおれの隣に座り、暗闇の中でもはっきりとした緑の目でじっとこちらを見た。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加