弐:知らぬ仏より馴染みの鬼(とは言うけれど。)

3/18
前へ
/210ページ
次へ
「天音!何他人事(ひとごと)みたいな顔してんの!これ、この(あやかし)、『契約』もしてないのになんで天音にくっついてんだよ!」 「…さぁ。」 そんなことおれが聞きたい。 「もー!こんなのに取り憑かれるとか天音らしくないよ!」 「おいおい、人聞き悪いこと言うな。取り憑いてなんかない、付き(まと)ってるだけや。」 「何すがすがしく開き直ってんだよ…。っていうか、庵は何をそんなに怒ってるんだ。」 千歳のナナメ上の返答はとりあえずスルーして、おれはプンプンという擬態語がテロップで浮かび上がってきそうな表情をした庵に向き合った。 正直庵がここまで千歳に噛みつくとは思っていなかったのだ。庵は自身では霊力を操ることはできないが、妖や精霊の力にはけっこう敏感で、それらを察知する力に長けている。その上で庵は昔から大抵の妖や精霊に対して友好的だった。だからきっと千歳のことも、どちらかといえばおれよりも積極的に関わりたがるんじゃないかというくらいに思っていた。 「………だって、こいつの霊力…天音と相性最悪じゃん。」 庵は拗ねたように俯き、ぽつりと呟いた。おれと千歳は目を瞬く。 「おまえ、おれの霊力がわかるんか。」 千歳は感心したように言って、庵の方に歩み寄った。庵はキッと顔を上げ、毛を逆立てた猫のごとく背の高い千歳を睨みつける。 「近寄んな天邪鬼(あまのじゃく)!天音に迷惑かけたら許さねーぞ!」 完全なる負け犬の遠吠えチックな捨て台詞を吐き捨て、庵は足元に置いたスポーツバッグをひっつかむと背を向けて走り去った。せっかく集めた落ち葉をまき散らして走るなと頭を小突きたくなったが、それはとりあえず置いておく。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

475人が本棚に入れています
本棚に追加