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「……前からか?」
千歳はなぜかおれをまじまじと見つめながら重ねて問いかけてくる。鋭く観察するような視線と、いつもの飄々と掴みどころのない感じとはどこか違うトーンの質問に微かに違和感をおぼえたが、それを深く考えようとする気は起こらなかった。
「…さぁ。昔はここまでじゃなかった気はするけど…。」
適当に返事をすると、千歳は微かに眉をひそめた。
「……なに?」
なんとなくいつもと違う様子が気になり聞き返すと、千歳はふっと表情を和らげ、普段の調子に戻って言った。
「いや、この間の疲れ取れてないんちゃうか。メシ作ったるから食べて寝ろ。」
意外な申し出に目を瞬く。
「え?メシ作ったるって…おまえ料理できんの?」
千歳はおれの反応に肩をすくめた。
「まぁな。昔、強烈なお節介焼きに仕込まれたんや…やけどそんな大したもんは作らんで。ほら、もう神社の仕事は店じまいせぇ。」
そう言うと千歳は紅葉に映える銀色の髪を掻き上げ、片方だけ長い羽織の裾をはためかせてひらりと座敷に上がってきた。祖父の留守中、おれ一人では広すぎる離れの廊下を、なぜか確信的に台所に向かって歩き出す。
覚束ない回転速度の頭にあれやこれやと一気に謎がなだれ込み、結局は何も消化しきれないままおれは慌てて千歳の後を追った。
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