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「…しかしほんまによう食ったな。」
台所の流し場に立った千歳が、しゃもじを持ったまま呆れたように言って振り返る。おれはちゃぶ台に頬杖をつきながら、その奇妙な絵面をぼんやりと眺めた。
「………ご馳走様。うまかった。」
「珍しく素直なんはええけどな…。…あいつ、なんでこんなときにおらんねん。」
「?」
千歳はおれの簡潔な感想を聞いて眉尻を下げ、そのあとぽつりと呟いた。それからもう一度背を向け手元の洗い物に戻る。
「片付けとか、おれやるけど。」
さすがに申し訳ない気がして立ち上がると、千歳はやんわりとそれを制した。
「手伝わんでええからはよ寝ろって。」
「いや、さすがにこんな昼間から寝ないって…。そこまで弱ってないし、別にいつものことだし。」
「はぁ、『いつものこと』ねぇ…。」
「なんだよ。」
何か言いたげな千歳の新緑の目を見返すが、そこからは何も読み取れる気がしない。一体なぜ、千歳がここまでおれの世話を焼こうとしているのかもさっぱりわからない。わからないのに、千歳が作ってくれた素朴な和食は身体に染み渡るように本当に美味くて、おれはしっかりと平らげてしまっていた。千歳の言ったように疲れが残っていたのだとしても、これだけ食べてゆっくり眠れば充分回復できそうな気がする。
結局千歳は手際よく片付けを済ますと、早く寝るようにと念を押して帰って行った。
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