弐:知らぬ仏より馴染みの鬼(とは言うけれど。)

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おれ達の間を乾いた風が通り抜ける。千歳はしばらく黙っておれを見つめていたが、それから仕切り直すようにふーと長い息を吐いて脚を組み直した。 「天音。もし今みたいに力を使った『仕事』を続けたいんやったら、もっとちゃんとおれを使え。」 「………え?」 「こないだみたいな特殊な霊力を発現させる時だけじゃなくて、全部の力をおれに向けろ。引き出す力は今までの半分でいい。それをおれが反射することによって、常におれの霊力を加算する。」 「……全部って、攻撃もか。」 「そうや。『裏返し(リバース)』の能力は受けた霊力をそのままの形状で跳ね返すこともできるし、おれは自分の力の方向(ベクトル)は操作できる。」 「……………。」 チャイムが鳴る。いつも耳にしているはずの慣れた音だが、今はかなり遠くで聞こえた気がした。千歳の落ち着いた声が、風の音も、眼下のグラウンドのざわめきも、予鈴の残像もすべてを塗りつぶして頭に響く。 千歳は緑のフェンス越しにちらりとグラウンドを見下ろし、それからいつもの表情に戻って振り返った。 「なぁ、心配やったら一回試しにやってみるか?なんでもいいからおれに向けて…」 「やらない。」 安心させるようににっと笑った千歳の言葉に、おれの声が重なる。思った以上に強い響きになり、自分の声の大きさに一瞬驚いた。おれは黙って立ち上がると、足元にあった空の弁当箱を拾って屋上の入り口のドアに向かった。 「おい、天音…」 背中から追いかけてくる千歳の声を遮るように、重い鉄製の扉が閉まった。
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