弐:知らぬ仏より馴染みの鬼(とは言うけれど。)

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千歳はおれの正面に立ち、すっと息を吐くと両腕を大きく広げた。 「ほら、なんでもいいから撃ってこい。」 「………だから、やらないって言っただろ。」 「それでもや。気づいてもうたからには、今までどおりに力を使わすわけにはいかん。かといって、おまえは『相談事』が持ち込まれれば無視することもできんのやろ。やったら、今はこれしかない。天音が了承するまで、おれは動かん。」 「………。」 両手を広げ、おれの前に立ちはだかる千歳の羽織を秋の風が揺らす。おれよりもずっと背の高いシルエット。ふわりとなびく袖口からは、鍛え抜かれた逞しい腕が見える。 「力」が欲しいだけなら、こんな「面倒くさい」ことをしなくても簡単に奪えるんじゃないのか。何も考えずに千歳の作った料理を食べて、何も気にせずに千歳のそばで眠りこけていた。あの時だって、今だって、おれの力なんて簡単に奪えるんじゃないのか。 『………現実(リアル)。』 千歳の新緑の目を見て小さく呟く。頼りない仄かな熱が喉の奥に灯る。千歳の目が微かに鋭さを増し、すっと細められた。放たれる攻撃に備えるように、僅かに重心を落として緩やかに構える。
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