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「なー、あまねー。」
「なに。」
日曜の朝、家の中にいるというのに当たり前のように聞こえてくる独特のイントネーション。どこか不機嫌そうに間延びしたリズムで名前を呼ばれ、おれはしかたなく幾何学の問題から顔を上げた。
「あのさー、おまえんとこの神主は一体いつになったら帰ってくるんや。」
「……じいちゃん?さぁ…もうけっこう経つからそろそろ帰ってくるとは思うけど。」
「なんやねん!その曖昧模糊とした雑な意思疎通は!古代国家やあるまいし、このご時世になんで連絡のひとつも取れんわけ!?スマホ出せ!番号教えろ!」
常が物静かとは到底言えないが、それにしてもいきなりヒートアップした千歳の謎のテンションにおれは目を丸くする。
「あー…あの人そういうのまったく持ってないし使わないから。たぶん電話すらほとんど掛けない。」
「はぁ!?なんやその歩く過去の遺物っぷり!くそーあのガラパゴス野郎!文明の発展に謝れ!」
「………。」
妖にここまで言われる自分の身内に呆れながら、休日の朝っぱらから人の家で好き勝手に吠える千歳を眺めるが、そこでそもそもの疑問に思い当たった。
「そういえば、千歳っておれのじいちゃんと面識あるのか?なんか前もそんな感じのこと言ってたけど。」
「…あー、まぁな。おれは長いことこの辺に住んどるから、そりゃ顔見知りにくらいはなるやろ。あのおっさんの目をごまかしてこの辺りで生きていける妖なんかおらん。」
「……まぁ、それはそうだな。」
思わず同意する。おれの祖父は「言霊師」でこそないが、人間離れした霊媒の能力を持っている。除霊やお祓いの役割を請け負うことがほとんどだが、その一方で妖怪や妖獣とも干渉することができ、時には人並外れた戦闘力でそれらを退けたこともある。自分の祖父とはいえ、信じられない逸話の数々を持つ底の知れない人物だ。
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