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「……人の身内にこんなこと言うのもなんやけど、おれはいまだにあれがほんまに人間なんかは疑わしいと思ってる。」
「……うん。まぁ…それはたまにおれも思う。」
祖父が全国津々浦々からの除霊や妖怪退治の依頼を受けて日本中を飛び回るのは今に始まったことではないので、今回の不在もおれはそれほど長く感じていたわけではない。年齢的なこともあるし心配がないと言えば嘘にはなるが、祖父には信頼できる相棒も各地にいることだし、「便りがないのは元気な証拠」を地で行く人だということも嫌というほど知っている。それよりも、千歳の反応の方が意外だった。
「で、なんでそんなに焦ってるんだよ。なんか用事でもあんの?」
「は?用事つくってんのはおまえやろ!どうすんねん、もうこの家の食糧は食べ尽くされてしまってんで…っていうか食べ尽くしたのはおまえや!」
「…あぁ。そのことか。」
緑の襷で羽織の袖を吊り上げ、片手に持ったしゃもじで空の米びつをカンカンと叩いて見せながら千歳はおれに詰め寄る。けっこう力の強い妖であるはずのおまえが、すっかり主婦(夫?)化していることの方が事態としては深刻な気がするんだが…。思わず半目で目の前の異様な光景を眺めるおれに、千歳は顔をしかめた。
「『そのことか』ってなー…。おまえの霊力もまだ回復しきっとらんのに、食わへんかったらもたんやろうが。おれが山で調達して来るにも限度があるぞ。」
至極真面目にそう言って眉をひそめる千歳に、不覚にも思わず噴き出しそうになった。
「いや…それこそ古代国家じゃあるまいし。ただ面倒で買い出し行ってなかっただけで、一応食費は足りなくなったら使えって預かってる。それにそろそろ…」
「?」
そう言いかけたところで、玄関のあたりから賑やかな声が聞こえた。
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