参:エンゲル係数と黒百合の怪(どっちも深刻。)

6/14
前へ
/210ページ
次へ
 和室のちゃぶ台を囲み、庵から依頼のあらましを聞き終えると、千歳は腕を組んで少し考えるような表情になった。 「……ふーん。自然公園の客足途絶える、その怪奇に迫れ!ってか…。」 勝手にワイドショーっぽい見出しをつけながら呟く千歳を庵が呆れたように眺める。 庵が受けた依頼の内容は、この近所にある自然公園の管理人から持ち込まれたものらしい。自然公園は広い芝生やこじんまりとしたアスレチックなどを含む憩いの場であり、園内では四季折々の様々な植物を観賞することができることでも知られている。いつもは紅葉の季節にもたくさんの人で賑わっているのだが、どうしたことか今年はぱたりと利用者が途絶え、今もなお閑散とした状態が続いているというのだ。 「それって、なんか施設側の問題とかじゃないってことか?」 施設の老朽化とか、新しくできたテーマパークに人を取られてしまったとか、魅力的なイベントの企画や広報がうまくいかなかったとか…そういう人為的な原因ではなく、神社(うち)に相談が持ち込まれた理由がなにかしらあるのだろうが、それがわからずおれは首を傾げた。 「うん。どうも、公園の一画にある植物園に行った人が呪われるっていう噂があるらしいよ。」 庵は湯のみを引き寄せ、煎茶を飲みながらそう言った。こういうのんびりとした状況で話だけを聞いているとまるで小学生が読む「がっこうの怪談」みたいな内容ではあるものの、実際にはおれの元に舞い込む仕事のほとんどはそういうものなのだからしかたがない。そうしてそういう相談事の100パーセントとはいえないにしてもなかなかの割合のものに、実際に妖やなにかしらの霊力が影響しているということも、経験上否定はできないのだ。 「『呪い』にもいろいろあるやろ。そこは聞いてないんか?」 千歳はさっき差し入れてもらった牡丹餅を頬張りながら庵に尋ねる。さっきの考え込むような表情はどこへやら、まったく緊張感がない様子に庵は顔をしかめた。 「聞いてるに決まってるだろ。…おまえ、本当に天音の役に立ってんの?」 「そんな怖い顔すんなって。心配せんでも、おれはやるときはやる奴やで。」 「そういうの自分で言う奴ってだいたい口だけで終わるんだよね。」 そう呟く庵の目が笑っていない。それでも千歳は気を悪くする様子でもなく呑気にもぐもぐと牡丹餅を咀嚼しているが、さすがにおれの方が居心地が悪くなってきた。 「えーと…。とりあえず明日にでも様子見に行ってこようかな…。」 そう言って湯のみを片付けるふりをしながら席を立とうとすると、庵が「あ」と小さく呟いた。 「ん?」 「……ごめん、天音に気遣わせて。おれが聞いた話は全部ここに書いてるから。明日、気をつけてね。」 そう言っておれに笑いかける庵の表情は、いつもの、おれのよく知る人懐っこくて優しい笑顔だった。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加