メグル・メグル・ロンド

10/16
前へ
/16ページ
次へ
「天界のことばだよ。普通の人間には読めない」 緑色の瞳を細くして、店主は言うのでした。 「君たちの神の作った、君たちのことばよりも、はるかに昔からあった…この世界で、もっとも古いことばだよ」 と。 「ちがうよ。世界でいちばん古いのは、この国のことばだよ、ぼくたちのことばは、大神オーディンから伝えられたものなのだから」 少しだけむきになって、少年は言い返すのでした。 なぜなら…学校でも、教会でも、大人たちはそのように、口をそろえていたのでしたから。 「世界には、多くのことばがある。多くの神々がいる。多くの人種がある」 やわらかな口ぶりのまま、店主は続けます。 「しかし、どのことばが、いちばん古くからあるのか…どの神が、いちばん正しいのか…どの人種が、いちばん優れているのか…その順番を比べることには、きっと、何の意味もありはしないさ」 湿気たたばこの香りを、まぶたを細めて嗅ぎながら…店主は口許をほころばせてみせるのでした。 そのひとへと、言い返すべきことばを…少年は、見失っています。 これまでに訪れていた、地中海の神のモスクのこと、砂漠の神の神殿のこと、あるいは、極彩色の神々の居る、東の果ての万神殿のこと…それぞれのまばゆさで光を放っていた、そこに居た神々のことを…少年はただ思い返すばかりでした。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加