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「天界のことばだよ。普通の人間には読めない」
緑色の瞳を細くして、店主は言うのでした。
「君たちの神の作った、君たちのことばよりも、はるかに昔からあった…この世界で、もっとも古いことばだよ」
と。
「ちがうよ。世界でいちばん古いのは、この国のことばだよ、ぼくたちのことばは、大神オーディンから伝えられたものなのだから」
少しだけむきになって、少年は言い返すのでした。
なぜなら…学校でも、教会でも、大人たちはそのように、口をそろえていたのでしたから。
「世界には、多くのことばがある。多くの神々がいる。多くの人種がある」
やわらかな口ぶりのまま、店主は続けます。
「しかし、どのことばが、いちばん古くからあるのか…どの神が、いちばん正しいのか…どの人種が、いちばん優れているのか…その順番を比べることには、きっと、何の意味もありはしないさ」
湿気たたばこの香りを、まぶたを細めて嗅ぎながら…店主は口許をほころばせてみせるのでした。
そのひとへと、言い返すべきことばを…少年は、見失っています。
これまでに訪れていた、地中海の神のモスクのこと、砂漠の神の神殿のこと、あるいは、極彩色の神々の居る、東の果ての万神殿のこと…それぞれのまばゆさで光を放っていた、そこに居た神々のことを…少年はただ思い返すばかりでした。
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