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軍服姿にこずかれながら、次第に離れてゆくその背中を…少年は、見送るだけでした。
握り締めたこぶしを、震わせることのほかには…何ひとつ、出来ないまま。
敵国のちょうほういん、スパイ、などの難しい言葉が…とぎれとぎれに聞き取れます。
が。
そんなような、わけの分からない言葉よりも。
「君の国の神、僕の国の神、どの神が本物で、どの神がにせものなのか…どの神のことばが本当で、どの神のことばがうそなのか…そんなことを比べ合い、争い合う…そんなのは、ばかばかしいことだとは思わないか?」
いつかのそのひとの…そんなことばが。
少年の耳には、より鮮明によみがえっていたのでした。
と。
しだいしだいに離れてゆく、店主の背中が。
そのひとの顔が。
ふいに、こちらへと…振り向きかけます。
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