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でも。
…この男。
なぜ、この街の写真や、地図を?
それに。
それらに書き込まれてあった、見たことのないような文字は…なんだろう?
左手は…差し出しかけたままに。
しかし、その手のものを、男へと渡すことは…少年にはなぜか、ためらわれていたのでした。
男の顔立ちは、よくよく見れば、外国人のようです。
それに、そのことばにも、聞いたことのないような、妙なくせがあるのでした。
それに。
その首許に光っているのは…。
それとは、どうやら…ロザリオであるようでした。
十字架をつけている人間には、気をつけなくてはならない…とは、父さんから常に言われていたことでもありました。
男は…ふう、と、ため息をついています。
「…君は、そのコインで…そのコインを、何に替えるつもりなのだろうか?」
「飛行機の、模型を買うための…それはぼくの、だいじなお金なんだ」
すると…どういうことでしょうか?
男は、すきま風のような掠れた音を立てて、笑っているようであるのです。
少年は…思わず、男を、少しにらんでいます。
が。
帽子の影のままの男の顔は…いえ、その口許は、なおほほえんでいるようであるのでした。
「おもちゃの飛行機のちいさな窓には、せいぜい、君の顔が映るくらいだろうね」
そのばかにするような言い方に、少年はむっとしています。
が、お構いなしに、男は続けるのです。
「だが、すてきだとは思わないか? 雲の間を行く飛行機の窓には、果てのない世界の果てのない景色が、いくらでも映るのだから」
…とは。
この男は…このひとは、何を言っているのだろう…。
いぶかる少年へと…変に楽しそうに、男は続けるのでした。
「だから、こうしよう。君が僕に、その写真と地図を返してくれたら、僕は君に、果てしない世界のことを、少しだけ話して上げよう」
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