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手袋をはめたままの男の指先が、その胸の内ポケットから、一枚の写真を取り出しています。
新しいような…地味なビル。
その正面にはためいている、トリコロールの国旗。
なんと言うか…軍などの重要な建物のようにも、それは見えなくもありません。
そのビルの右の奥の辺りに…何かの遺跡でしょうか?
円形の…古めかしい建造物が、白と黒の陰影の中に、くっきりと浮かび上がっています。
若いような、嗄れたような…男の声が、ことばを紡ぎ始めます。
ドーム型の屋根を持つ古い建物と、美しい石畳の舗道…。
あたたかく、からりとした空気…。
人々でにぎわう市場には、色とりどりの魚や野菜がどっさりと並んでいて…。
ぶどうのお酒を飲んだ人々が、陽気に歌い、そして騒いで…。
街の辻々には、古い神々の彫刻があり…人々はそれを、大切な友人のように思っている…。
男のことばは、とても巧みでした。
そのひとの案内には、胸のおどるような愉しさがありました。
凍てつくようなベンチに座っていることを…さらには、あの飛行機の模型のことをすら、少年はしばらくの間、忘れてさえいたのでした。
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