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雪のかけらが…ふたたび、舞い始めていたようでした。
淡い夢の中のような、ふしぎな時間。
「さて、旅は、これでおしまいだ。さあ、次は君に、約束を果たしてもらおう」
とのことばで、それは終わりを迎えていたのでした。
…約束。
そうだ。
次は…ぼくの番だ。
少年は、封筒を差し出し…男は、それを受け取り…。
そのやりとりの途中…少年は、思い切って、たずねてみたのでした。
「おじさんは…誰なの?」
「…僕かい?」
男は少しの間、考えている様子でしたが、やがて、にっこりとほほえんでいたのでした。
「そうだね、僕は…僕の仕事は、そう、旅行案内業だよ。そして、この広場が、旅行案内の窓口さ」
男のその言葉に、少年は、ちょっと困ってしまっていたのでした。
旅行案内を…するひと?
それなら…料金は?
少年の手持ちには、今は銅貨が三枚しかありません。
そして、その一枚でも欠けてしまったのなら、飛行機の模型は買えないのです…。
「代金は、いいさ。なにせ、君ははじめてのお客だからね」
男には、少年の考えは見透かされていたもののようでした。
そして、別れ際のこと。
「だが、僕のことや、僕と話したことは、秘密だよ。『本当に大切なことは、むやみに口にされてはならない。神の名が、そうされてはならないのと同じように』…僕の国に、古くから伝わることばだよ」
旅行案内人を名のる男は、わずかに笑顔をつくりながら…少年へと告げていたのでした。
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