せめて、見させて

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それも隠し撮りなのか、後ろ姿だ。 ドキッ ん? 心臓がドクドクするような……。 顔が熱くなるような……。嫌だなぁ、すぐに熱くなるとか私のスマホかよ。 そもそも誰?? 男の子なのは確実。肩幅もしっかりしていて、体格は良い。 私のガラケーを持っていた時期を考えたら、同い年か年上か……。 中学生か高校生あたりと見ていいだろう。 色素が薄いのか、染めているのか。 栗色の髪が光を受けて輝いて見える。 白いシャツと学生服らしき黒いズボン。 俗に言うヤンキー座りをするその背中は、何だか寂しそうに見えた。 男子の目の前には、キラキラと光を反射して輝く川の景色が広がっている。 見えないその新緑色の瞳にも、その美しい光景が映りこんでいるのだろう…。 ……は? ……待て、新緑色の瞳? 私は何を言っているんだ? 目の色なんて、こんな写真だけじゃ判断出来やしないだろうに。 馬鹿な事を考えてしまった。 顔が見えないから、目どころか、どこの誰かわからない。 覚えがないと言えばいいのか。 自分が撮ったはずなのに、全く記憶にない。 誰なのか。 そして、いつ撮ったのか。 思い出せない。 あ、そうだった。 私、記憶ないんだっけ。 親から聞いた話。 信じられないけど、本当の事。 私は、記憶喪失らしいのだ。 高校生の頃、神社の階段から落ちて、頭をぶつけたらしい。 怪我も掠り傷程度で、脳に異常なし。 しかし、何故か。 中学生の頃の記憶だけが、抜けている事がわかった。 中学生時代の友人も、先生も、学校も覚えていない。思い出せない。 暫くすれば、記憶は戻るだろと医者に言われた。 しかし、月日がたち、成人した今も記憶は戻らない。 他に異常はないし、何事もなく生活を遅れているのだから、気にして来なかった。 だが、この写真。 覚えもないし、人嫌いな私が撮るはずのないもの。後ろ姿ではあるが、距離は近い。 他人なんて間柄ではないはず。 きっと中学生時代のものに違いない。 その前後の写真に、私が通っていたと聞いた中学校の校舎が映りこんでいる事が何よりの証拠。 気になる……。 私は少しだけ、今更ながら、無くした記憶に興味を持った。 友達も片手で数えるほど。 いても、他人だから興味はないし、人は好きじゃあない。 だからか、友達の写真は1枚も持ってはいない。 親の写真も。 そんな私が、撮った人。 気にならないはずはなかった。 この胸の高鳴りも、きっと好奇心から来るものなのだろう。 知りたい。 どこの人? 何て名前? 私の知り合いなの?どんな関係が? 全部教えろとは言わない。 だけど。 せめて、顔だけでも、見させてもらえたら。 私の人探しは、こうやってはじまった。
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