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終わりと始まり
死は突然やってくる。
仕事が休みのある雨上がりの晴れた日、御國は駅前のペデストリアンデッキを歩いていた。
途中、足を滑らしそうになった御國は近くの手摺を掴んだ。
後ろで1つにまとめた肩より少し下まで伸びた黒髪が、御國の動きに合わせて揺れたのだった。
「ふぅ……」
安心した御國は息をついた。
そうして、肩から落ちかけた小さな肩掛けカバンを持ち直したのだった。
仕事が休みの日に、わざわざ時間を掛けて駅前までやってきたのは、たまには外でお茶を飲むのも悪くないと思っての事だった。
そして、もう1つ大きな理由があった。
(結婚、結婚……。疲れたな……)
最近、自宅にいると両親が執拗に御國に結婚を勧めてくる。
確かに両親の言う通り、今年で26歳になる御國は、もう結婚していてもおかしくない年齢であった。
学生時代の友人達も続々と恋人が出来て、結婚や出産をしている。
未だに彼氏さえいない御國は、遅い方なのだろう。
そんな御國を両親が心配するのも、よくわかる。
けれども、御國も決して好きで結婚していない訳ではない。
ただ、何となく彼氏を作る機会を逃してきただけだった。
御國だって本当は結婚したいし、子供だって欲しい。
そう、あそこにいる若い夫婦と可愛らしい女の子の家族のように。
(あの女の子、2歳くらいかな……? 可愛いな……)
御國がペデストリアンデッキから下の道路を眺めている若い夫婦と女の子に気を取られながら、階段を降りていた時だった。
不意に、御國は濡れていた段差で足を滑らせてしまった。
(えっ……)
そう思った時には、既に地面に向かって落下していた。
スローモーションで動いていく視界を眺めていると、先程の若い夫婦と女の子と目が合った。
相手は「あっ」と言いたそうな顔をしていたが、御國自身もそんな顔をしているような気がしたのだった。
そうしている間に、御國は階段下の地面に叩きつけられた。
地面に叩きつけられた頭に鈍い痛みが走った。
叩きつけられた音に気付いた通行人達が、御國の周りに集まってきたのだった。
「大丈夫か?」や「救急車を呼びますか?」と聞かれたが、御國は声を出す事も身体を動かす事も出来なかった。
もう痛みさえ感じなかった。ただ、頭から出血しているのか、血の匂いがする。
身体から血の気が失せて、急速に視界が暗くなっていったのだった。
御國が暗くなっていく視界をなんとか動かすと、先程の若い夫婦が目を見開いてこっちを見ていた。
その若い夫婦の近くにいた、小さな男の子の兄弟を連れた夫婦も同じように御國を見ていたのだった。
(ああ……。私も、あんな子供が欲しかったなあ……)
そうして、御國は死んだのだった。
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