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翌朝。 淹れたてのコーヒーを飲みながらミカが言った。 「マナ、顔色良くなったね」 ほろ苦くて甘い香りが、ふんわりと室内に充満している。 「そう? 久しぶりにたっぷり寝たからかも。ほんとに、ありがとね」 「いいよ。でもさ、まさか急に別れちゃうと思わなかったな。こないだまでずーっと順調だったからさ」 「まさかだよね。全然気づかなかったんだよ。こんなことが無かったら、結婚まで考えてたのにね」 「そうだよね。でも、今からなら間に合うんじゃないの? 話し合う余地はもうないの? タイチくんのこと、まだ好きなんでしょ?」 「えっ」 言葉に詰まる。 「それに、その一件以外はぜーんぶ、パーフェクトだったわけしょ? 人間、欠点の一つや二つ、誰にでもあるよ」 「でも、二年間ずっと騙されてたんだよ」 「大げさだなぁー、男なんて、誰だって浮気くらいしてるよ。私だったら許すなあ」 ミカの黒目がどんどん大きくなっていく。そして綺麗に塗られたリップをツヤツヤと輝かせながら、ささやいた。 「浮気はやられた方も悪いの。女としての魅力が足りなかったんじゃないの?」 ミカの唇がみるみる大きくなっていく。そして、顔いっぱいに広がった口を大きく開けて「あはははは!」と、甲高い声で笑った。 私は、あまりの出来事にしりもちをつき、その場から動けなくなってしまった。 「ねえ、本当にいいの? 今すぐ走って戻らなくても? あんなにいい人ほかにいないよ」 「……いいの」 「あんたみたいなの、拾ってくれるひとなんか、他にいないよ」 氷のように冷たい無数のトゲが、胸の奥を突き刺すような感じがした。 「もうやめて!! 私は、これで、いいの!」 ミカは、まつげを孔雀の羽のようにフサフサと揺らしながら、目をパチクリさせて驚いた様子だった。 「珍しいねぇ、そんなに大きい声出して」 「もう、ほっといてよ。一人になりたいの」 するとミカの髪がどんどん伸び、一束ずつ編み込まれて一枚の布のようになった。その髪はみるみる壁を伝っていき、結局私はその布にすっぽりと包み込まれてしまった。 「意地張っても現実は変わらないよ。腹立つんだよね、あんたみたいな身の程知らずの女」 「なんでそうなるの? なんで私に怒ってるの?」 反省がないからよ、と言った瞬間、髪で編まれた栗色の壁が私の体に密着してきた。胸の奥の痛みが、どんどん増していく。 「やめて!!もう帰る!!!」 悲鳴のような声で叫んだ瞬間、ガクッと体が落ちるのと同時に、目が覚めた。 え……夢? 「どうしたの?」 気づいたミカが、寝ぼけながら聞いてきた。 「大丈夫?」 「うん、少し変な夢見ちゃっただけ」 そっか、と言ってミカはすぐに目を閉じた。 まだ朝5時か。気持ち悪い夢を見たなあ。まだ胸の奥に、嫌な痛みがキリキリと残っている。
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