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いつまでもミカのお世話になるわけにもいかない。私は、私の過去を、自分でどうにかしなきゃいけない。大丈夫。きっと、ちゃんとできる。 ミカの家を出るとき、ミカは最高の笑顔で見送ってくれた。またいつでも電話して!と、何度も振り返り、何度も手を振った。 それから、歩き慣れた商店街を抜けて、一直線に進んで行くと駅がある。 そのまま駅を突っ切って、さらに十五分歩けば実家に着く。 母親に連絡すると、ものすごく心配しているようだった。きっとあの時は気が動転して、おかしな文面だったかもしれない。 お母さんも、ミカも、女の人は誰しもこんなに辛い経験をするのだろうか。辛いことの先にしか、幸せはやってこないのだろうか。そんなわけない。 少なくとも、世界は、そんなに残酷じゃないはずだ。 実家に着くと、一番にお母さんが出迎えてくれた。私の部屋は、そのまま残してくれていた。 「お茶でも飲む?」 「ううん、後でいい。先に荷物片付けるね」 私は、数日前に宅急便で送った荷物の封を開けた。つい最近まで、ダンボールに詰められる予定など全く無かったものたちを、一つ一つ取り出して行く。 あれ? 私は、ダンボールの底に写真アルバムを見つけた。 そういえば、彼と同棲を始めたときからそのままだったっけ……。 そこには、付き合い始めの頃の思い出の写真が詰まっていた。 初めてのデートの写真、海にドライブに行ったときの写真、誕生日にサプライズをしてもらった時の写真。アルバムは、全部で3冊。 勢いよく立ち上がると、庭に出て、バケツに水を汲んだ。ザアザアと勢い良く流れ出る水に清々する。 一冊目のアルバムを開くと、その写真の一枚一枚を丁寧に取り出し、山のように重ねて置いた。それから、二冊目、三冊目と繰り返し、アルバムの最後のページに挟んであった手紙を、山の一番上に重ねた。 色々あったけど、結果は絶望的になっちゃったけど、いつまでも後ろを向いてたってはじまらない。もっと早く気付ければ、そもそも出会わなければ、と考え始めたらキリがないけど、それも今日でおしまい。きっぱりと終わりにする。 マッチにそっとを火をつける。一ミリの迷いもなく、その小さな炎を、思い出の山にもぐらせる。 「たしかに、幸せだった。ありがとう」 一筋の煙と共に、焦げ臭い空気が流れた。 今になって思えば、そうだったのかもなあ、と思うようなことがいくつかあった。だからと言って、それを今更ひとつひとつ拾い集めても意味もない。意味を知りたくもなかった。 「大切なのは、明日への希望だよ」 ミカの言葉を思い出していた。 細い煙を上げながら、思い出はゆっくりと、確実に炎に散っていった。 すべてが灰になったころ、胸の奥の痛みも感じなくなっていることに気づいた。 「任務完了!」 一気に肩の力が抜けて、庭の縁側に寝転んだ。爽やかな疲労感が残り、目の前には、完璧すぎる青が広がっている。 綺麗……。 マナは、おもむろにジーンズのポケットからケータイを取り出し、大きな深呼吸を一つ。 それから、空の写真を一枚撮った。
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