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押し入れから少年
「杏那ちゃん、お台所の方手伝ってもらってもいいかな?」
「はい!」
杏那がうちの母親に呼ばれて出ていく。俺は部屋に一人取り残された。
俺、瀬口悠真は、物置みたいになっている部屋で祖父の遺影になりそうな写真を探していた。
寺原杏那は、祖父の家の近所に住んでいる子で、同い年なこともあって、こっちに来たときはよく遊んでいた。『悠真のおじーちゃんには、孫みたいに可愛がってもらったから』と、祖父の訃報を聞いて、家族総出で手伝いに来てくれた。もっとも、祖父の住んでいるこの田舎町では近所の人が冠婚葬祭を手伝うのは普通だそうだけど。
しかし……ない!全然ない!
なんで、じいちゃんの写真が全然ないんだ!写ってても全然笑ってない!
『遺影になりそうな写真探しておいて。……大変だと思うけど』
って、母さんが言ってた意味がようやく分かったよ!
どうしよう……
カシャ
「ん?」
ふいに押し入れの中から微かに音が聴こえた。
中のものはほとんど引っ張り出しているから、何かが落ちたりすることはないはずだ。
ねずみかなんかでもいるのか?
僕は押し入れに近づき、そーっとふすまを開けた。
上下二段の普通の押し入れ、その上段に男の子がいた。
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