写真

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ふっと、体の燃えるような熱さが消えた。 気付くと、妻が花瓶の水を思い切り写真にかけていた。 仏壇も床もびしょびしょだ。 妻は肩で息をして、俺にしがみついてきた。 「あなた・・あなた・・。あなたまでいなくなったら・・私・・。」 俺の体の下のアキは上の体半分になって、こちらを笑顔で見つめている。 頭の中に声が響いた。 アキの声だ。 おとーたん。おかーたん。 わかっているよ。 わたし、とってもだいじにしてもらってた。 わたしも、おとーたんとおかーたんとずうっといっしょにいたかった。 ごめんね。 いっぱいなかせてごめんね。 ずっとずっとだいすきだからね? こんどはもっとげんきにうまれてくるからね? いまだけ ばいばい。 だあいすき。 最後の言葉と共に、俺の下からアキの姿はかき消えた。 俺と妻は抱き合ったまま。へたりと床に座り込んだ。 焦げ臭い匂いがまだしている。 床に落ちた写真は、下半分が焦げていた。 妻が泣いていた。俺も泣いていた。 「聞こえた?アキの声。」 妻が写真の半分を見つめながら、ようやくそう言った。 「ああ・・。聞こえたよ。」 俺は何度も(おのれ)を落ち着かせるように、妻の髪を撫でた。 アキと同じ癖毛(くせっけ)が愛おしい。 「今度は元気に生まれて来るって。」 「そうだな。」 俺たちは互いの瞳の奥を見つめて、ようやく心から微笑んだ。
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