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妻の様子がおかしいと気付いたのは、仕事から戻った時だった。
ドアを開いた途端、
妻の得意料理のクリームシチューの香りが鼻腔をくすぐった。
驚いてキッチンに足早にゆくと、笑顔で俺を振り返った妻がいた。
「おかえりなさい、あなた。」
彼女の前には、整えられた食器が並んでいる。
コンロには温かそうなシチューが、弱火でくつくつと煮えて
その湯気が、部屋を心地よく暖めている。
俺は素直に喜んだ。
「お?旨そうだな。」
妻は微笑んで俺の顔を見つめた。
習い性になってしまった、帰宅したら真っ先に目をやる小さな仏壇は
今夜は扉が閉まっている。
ようやく妻も心の整理がついたのかと、俺も妻に微笑みかけた。
妻は幸せそうに頬を染めていた。
俺は妻をねぎらいながら、急いで部屋着に着替えにゆき、
散らかしっぱなしだった部屋がきれいに片付いているのに気づく。
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