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最期のアキの死に顔は安らかだった。
あんなに長い闘病だったのに、
亡くなるときは静かに眠るように息を引き取った。
俺らはようやくアキを思い切り抱きしめて、髪や腕を摩ることが出来た。
小さな小さなアキの手を、妻は納棺しても片時も離さなかった。
葬儀が終わっても、アキの遺骨は仏壇の前に置いたままだった。
遺骨の前にはアキと行った遊園地の大きな写真が立てかけてある。
赤い頬のアキが妻にしがみついて、こちらを見て笑っている。
俺がその妻の肩を抱いている。
最高に幸せだった日の切り取られた一瞬。
俺にとっては、つい昨日のような何十年も前のような気がする。
妻はその遺骨をずっと抱きしめたまま、何日も動かなかった。
食事もろくにせず、家事も一切しなくなった。
眠るときも遺骨を抱きしめて眠る。
後を追うのではないか・・とまで考えて
気が気ではなく、長めに休みをもらっていたが
俺は後ろ髪を引かれる思いで、また出勤を始めた。
あれから半年、
その妻が今、アキが生きている時のように微笑んで目の前にいる。
心底嬉しかった。
俺は久しぶりに妻の手料理を、旨い旨いとパクパク食べると
妻は嬉しそうに目を細めた。
俺はことさらアキのことには触れずに、会社でのたわいのない話をした。
妻は俺の話に楽しそうに相槌をうつ。
俺はアキが亡くなってから初めて、安心して眠りにつくことが出来た。
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