写真

3/8
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
最期のアキの死に顔は安らかだった。 あんなに長い闘病だったのに、 亡くなるときは静かに眠るように息を引き取った。 俺らはようやくアキを思い切り抱きしめて、髪や腕を(さす)ることが出来た。 小さな小さなアキの手を、妻は納棺しても片時も離さなかった。 葬儀が終わっても、アキの遺骨は仏壇の前に置いたままだった。 遺骨の前にはアキと行った遊園地の大きな写真が立てかけてある。 赤い頬のアキが妻にしがみついて、こちらを見て笑っている。 俺がその妻の肩を抱いている。 最高に幸せだった日の切り取られた一瞬。 俺にとっては、つい昨日のような何十年も前のような気がする。 妻はその遺骨をずっと抱きしめたまま、何日も動かなかった。 食事もろくにせず、家事も一切しなくなった。 眠るときも遺骨を抱きしめて眠る。 後を追うのではないか・・とまで考えて 気が気ではなく、長めに休みをもらっていたが 俺は後ろ髪を引かれる思いで、また出勤を始めた。 あれから半年、 その妻が今、アキが生きている時のように微笑んで目の前にいる。 心底嬉しかった。 俺は久しぶりに妻の手料理を、旨い旨いとパクパク食べると 妻は嬉しそうに目を細めた。 俺はことさらアキのことには触れずに、会社でのたわいのない話をした。 妻は俺の話に楽しそうに相槌(あいづち)をうつ。 俺はアキが亡くなってから初めて、安心して眠りにつくことが出来た。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!