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「おい、待てよ。」
俺は妻に声を殺して立ちはだかった。
「あれはアキじゃない。お前ならわかっているんだろう?」
妻は俺の目を見ようとせずに、同じように声を殺して囁く。
「アキよ。帰ってきてくれたの。いいじゃないそれで。」
そして俺の目をにらむように顔をあげた。
「私はこれで幸せよ。アキを抱きしめて、アキと話せて、アキと生きている。
それ以外に何も望まないわ!」
俺は顔を両手で覆った。
「それでも・・あれは偽物のアキだ。本当のアキじゃない・・。
たとえ幸せだと思っても、それは偽物の幸せだ・・。」
「言わないで!信じなくちゃ消えてしまうかもしれない!」
妻は叫んだ。
「私からもうあの子を奪わないでっ!」
そのままアキの元へ走り寄ろうとした。
「待てっ!話を聞いてくれ!」
俺は妻の腕を掴むと、
妻が大きくよろけてすぐそばにあった仏壇に体が当たった。
小さな仏壇は大きく揺れて、小さな骨壺を揺らし
朝早く妻がいつものように立てていたのだろう、
火のついた蝋燭が倒れこんだ。
あっという間に蝋燭の火が、前に立てかけていたアキの写真に燃え移った。
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