10人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
倒れそうになった妻を支えていた俺と妻は同時に息をのんだ。
その時キッチンの入り口近くにいたアキの声が聞こえた。
「おとーたん。おかーたん。」
振り向くとアキが紙を火にくべるように、
ちりちりと足の方から丸まりながら消えてゆく。
妻が悲痛な悲鳴を上げた。
「アキ!アキーーッ!!
あの子が・・あの子が・・消えてしまうっ!」
俺はたまらずにアキの体にしがみついて、
見えない火の粉を手で押さえて止めようとした。
「だ・・だめだっ・・アキッ!・・行くなっ!」
見えない火が、俺の手から腕‥顔や腹に
じりじりと焼き焦がしてゆくのが解る。
熱さに身が焼かれる。
それでも手を離せない。
滂沱と涙が零れる。
これはきっと俺たちが幼いアキに無理強いをした、
生きさせようとした痛みなんだ。
どれほど痛かっただろう・・どれほど辛かっただろう・・。
俺たちの都合だけで、俺たちが逝って欲しくなくて、
苦しみを強いてしまった・・。
ごめん・・ごめんよ・・アキ。
でも・・それでも・・生きていてほしかったんだよ。
別れられないくらい、愛していたんだよ・・。
俺は熱さに叫びながら、体中で消えるアキを抱きしめた。
最初のコメントを投稿しよう!