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当該の家は群馬にあった。まさか都内から出るとは思っていなくて驚いたが、日当が高いので特に気にならなかった。
社用のバンで揺られること2時間、それは山奥に建っていた。
いかにもお金持ちの別荘といった感じで、仰々しい大きな門には金のライオンの取っ手が2つついていた。
社長はその物件を見上げながらあたふたと独り言を言っていた。
「こ、こんな豪邸だとは聞いてない。どうりで羽振りがよかったわけか……しかしこれ、1日じゃ終わらんだろ……」
瑞希も絵に描いたような豪邸に呆気に取られ、達哉に同意を求めた。
「すごい家だね」
隣へ顔を向けると、達哉はよだれを拭っていた。
しかし社長は仕事にとっかかると、慣れたようにてきぱきと指示をし始めた。
「じゃあまず、タンスとかテーブルとか、でかいものから運んじゃおうか」
瑞希は引っ越しのバイトはしたことがなく、かなり骨の折れる仕事だった。息を切らしながら往復していると達哉とすれ違った。
「なんだよ、もう疲れたのか。だらしないな」
達哉は涼しい顔をしながら小さな椅子を運び出していた。
一通り家財をトラックに載せ、ゴミ捨て場に向けてトラックが出発すると、社長は次の指示を出した。
「じゃあ次は小物をゴミ袋に詰めていこうか」
これで少しは楽になるかと部屋に入ると、達哉がソファでくつろいでいた。瑞希がサボりだと指摘すると、達哉はどこ吹く風といった顔で
「ここに座ってた家主の気分に浸っていたのさ」
とうそぶいた。
しかし小物をゴミ袋に詰める作業は、達哉の言うとおり感慨深いものだった。というのも、普通の人があまり目にしないような装飾品や骨董品が次々と発掘され、見ているだけで楽しかった。
すると横から達哉がこっそりと話しかけてきた。
「おい、何か金になりそうなものがあったら持って帰ったほうがいいぞ。どうせ捨てられちゃうんだからな」
瑞希は呆れてものも言えなかった。ネコババではないか。たとえ捨てられるとしても瑞希は良心が痛み、達哉の真似はとうていできないなと思った。
瑞希が黙々と小物をごみ袋へ放り込んでいると、重箱から大きめの封筒が出てきた。捨てる前に中身を確認しようと見てみると、写真が大量に詰め込まれていた。瑞希は一瞬ためらい、達哉に声をかけた。
「この写真も捨てちゃうの? なんかもったいなくない?」
達哉は振り返って、瑞希の手元の写真を見た。
「あぁ? 普通捨てるだろ。持っててもしょうがない。それより金目の物を……」
あとの言葉は瑞希の耳に入らなかった。瑞希はポケットに入る分だけ写真を残し、残りはごみ袋へ放り込んだ。瑞希にはなんとなく写真を捨てることが惜しまれた。その人の生きた証が全て燃やされてしまう気がして……。
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