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あまりに家が大きくて、予想通り片付けは半分も終わらなかった。社長は採算を気にして青い顔をし、追加料金を請求しなきゃと呟いていた。
帰りの車中、達哉は大切そうにパンパンに詰め込まれたリュックを撫でていた。
そんな達哉を見ていると呆れてため息しか出なかったが、瑞希はそれよりも写真が気になってしかたがなかった。達哉には軽蔑を覚えるものの、達哉と同じく瑞希の手は無意識にポケットを撫でていた。
家に着き雑事を終えると、瑞希はポケットの写真を取り出した。
パラパラと眺めてみたが、写真にはあらかた人が撮影しそうな場面が収められていた。旅先で撮った写真、宴会の写真、集合写真。人の生き様を見つめるといっても、赤の他人を見てもつまらないなと思いながら写真をめくっていた。すると一枚の写真に手が止まった。
そこにはシャベルを片手に、もう一方の手を腰にあてて、大口を開けて笑う男性が写し出されていた。歳は還暦くらいだろうか。そしてひときわ目を引くのが、背後に写る、積み上げられた金塊だ。
この異様な雰囲気の写真に瑞希はうっとりと魅入られてしまった。さらに裏を見てみるとこれまた不思議に、
「徳川の埋蔵金、たしかに頂戴した。野口弥平」
と殴り書きがしてあった。
当然偽物だろうとは思ったが、瑞希には少し引っかかるものがあった。
今でこそ写真というものは加工し放題だが、この写真はかなり色あせ擦り切れている。どうやら古いものに間違いない。はたして白黒写真の時代にここまで加工する技術があっただろうか。また、手を加えたにしても、なぜそうする必要があったのか、何を思ってこの写真を作ったのかが気になったのだ。
瑞希に深い意図はなかった。ただ純粋に気になっただけだ。
車内での達哉の言葉が思い起こされる。
「お前そんな写真持って帰るなんて馬鹿じゃねえの。気味わりいよ」
ネコババ男に哀れな目で見られ、もしかしたら意地があったのかもしれない。瑞希は気が付くと深く考えずにSNSに写真を添付して投稿していた。
「今日ふと手に入れた写真なんですけど、詳細の分かる方はいますか? 何でも徳川の埋蔵金の写真らしいです」
投稿し終えると、今日一日重労働で疲れていたことを思い出した瑞希は、伸びをして布団に入り、すぐに眠りについた。
翌朝目が覚めると、瑞希は時刻を確認しようと携帯を見た。寝ぼけ眼で画面を見た瑞希だったが、目を見開いて驚いた。通知で画面が埋め尽くされている。しかもそれは現在進行形で、バイブが今まさに鳴り続けていた。
何事かとすぐさまSNSを開くと、寝る前に投稿した例の写真へたくさんのコメントがついていた。
「こんにちは。この写真はどこで手に入れられたのですか? 詳細を教えてください」
「デマだろ。こんなことして楽しいでちゅか? かまってちゃん」
「考古学を専攻している者です。この写真は以下の観点から本物の可能性が高いと思われます」
「東方テレビ報道部です。こちらのお写真を番組で使わせていただくことは可能でしょうか?」
何が起こったのか頭が追い付かず茫然としていると、達哉から電話がかかってきた。
「お前すげえな! もしかして俺ら億万長者になれんじゃね!?」
なぜか自分の所有権を主張している達哉をよそに、瑞希は何が起きているのか、どうすればいいのか尋ねた。
「ん~? とりあえず有力な情報が来るまで待ってみれば?」
「でも、他人の家から写真を持って来たってバレちゃったら……」
達哉はやれやれといった声色で答えた。
「写真くらい何ともないっしょ。俺みたいにネコババしたわけじゃないんだし。荷物に紛れてたことにでもしとけよ」
ネコババの自覚があったことに驚いたが、瑞希は先を続けた。
「そんな確かな情報が来るのかな」
「かなり拡散されたみたいだし、効果は十分でしょ。もうテレビでも取り上げられてるし」
瑞希は慌ててテレビをつけた。
「はい、こちらが今ネットで話題になっている写真です。では専門家の長月さんにご解説いただきたいと思います」
使用許可を出してないのにとブツブツ文句を垂れていると、達哉が口を挟んだ。
「まあ、俺も社長にあの家の情報聞いてくるよ。あの家にあった写真だしね」
夜にまた電話すると言い残し、達哉は電話を切った。
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