徳川の埋蔵金

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 野口周吾さんも還暦くらいの見た目だった。そして、どことなくあの写真に写る人物の面影があった。  玄関で野口さんは両手を広げて瑞希を迎えると、そのまま応接室に案内した。そこはまだ前回片付けに着手しておらず、当時のままと思われるソファやテーブルが置かれていた。  挨拶もそこそこに瑞希はさっそく写真をお見せした。野口さんは懐かしそうにうんうんと頷きながら写真を見つめていた。 「まさしく私の祖父です。この写真を何度も見せられ、自慢話を聞かされておりました」 「ではやはり、埋蔵金は本物なのですか?」  瑞希は芸がないと思いながらも核心を突く質問をしてしまった。野口さんはそんな瑞希を手で制し、訥々(とつとつ)と話し始めた。 「祖父は私を膝に乗せ、よく語っていたものです。『じいちゃんはな、かの有名な徳川の埋蔵金を見つけたんじゃ。みんな喉から手が出るほど欲してる宝をな、ワシだけが見つけたんじゃ。すごいじゃろ』 他にも沈没船から金貨を拾っただの、洞窟で大蛇に出くわしただの、祖父はよく自分の冒険談を私に語り聞かせていました。どうやら自分のことを大きく見せ、面白おかしく話すのが好きだったようです。小さかった私はそれ信じ、また誇りをもって、学校で自慢気に話しておりました。しかし一部の同級生から『お前のじいちゃんは嘘つきだ』と言われ、よく喧嘩になりました。そこで『じいちゃん、証拠を見せてよ』と私が言うと、祖父は決まってこの写真を見せてきました。もっとちゃんとした証拠がいいと言うと、『本物の金塊を見せると警察に没収されるから見せられん』と言われ、いつも誤魔化されておりました」  野口さんはそこで一息ついた。瑞希は黙って続きを待っていた。 「大きくなってから分かったことですが、祖父はホラ吹きとして有名だったようです。たしかに冒険家を自称し、あちこちに出かけてはいたようです。しかし当然お宝なんて発見したことはなく、古い陶器が出土したと自作自演をしたことすらあったようです。それゆえ世間ではお騒がせ者として敬遠されていたようですね。ほら、この間のワイドショーでも言っていたでしょう? 祖父はたしかに有名だったんです。悪い意味でね」  瑞希は話を聞きながら、会ったこともない野口弥平という人物に思いを()せていた。 「祖父がどんな人なのかをお知りになりたいのでしたね。まあ、今話した通り、虚言癖なのか単に目立ちたがり屋なのかは分かりませんが、そういう評判の人です。しかし、祖父は自分の冒険の話をするとき、とにかく自信満々に話しておりました。そしてなにより生き生きとしておりました。今では私は、ホラだろうが何だろうが、あの顔を思い出すと自然と元気が湧いてきます。何が本当だろうと嘘だろうと、周りの目など気にせず、自分だけが信じていれば幸せになれる。そんな気にさせてくれるんです」 「これも何かの縁でしょうね。人生で一番の大ホラがここまで広がって、祖父も天国で喜んでいると思いますよ」  帰りしな、そう言って瑞希はお土産に大きな包みをもらった。  帰りの電車の中で瑞希は物思いに(ふけ)っていた。世間からは(うと)まれながらも、子供のような嘘をつき続ける野口弥平。瑞希はどこか憎めず可愛らしさを感じ、ほっこりした気分に浸っていた。  長い道中のため、瑞希はもらったお土産を食べることにした。野口さんはお菓子だと言っていた。しかし今更ながらやけに重いと感じ、包みを解くと、瑞希は目を見開いて驚いた。そこには金塊がいくつか包まれてあった。  野口弥平という人物を再度思い浮かべる。大口を開けて笑う、彼の顔が脳裏に浮かんだ……。
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