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「大丈夫ですか」
目を覚ます。さっきと同じ声だ。覗き込んでいたのはカメラをこちらへ向けていた彼だった。あの子のことを思い出して怒りとともに起き上がろうとする。
「頭打ってると思うので起き上がらない方がいいです」
彼はずいぶんと常識的なことを言う。あの子の写真を撮っていたとは思えないくらいに。
「どうして……」
それだけで伝わったのかよくわからないが、彼は話しだした。
「そこに悲しみがあって、そこに人が集まっていたから、その環境が僕の撮りたい、撮りたかったものだと思ってしまったのです」
だんだん申し訳なさそうな顔になっていく。彼の言うことはよくわからなかった。
私は悲しかった。あの子の選んだ道を事前に知ることもできなかった。悲しかった。せめて人の目に触れないように、そうするしかできなかった。何かするには遅かった。起きてしまってからでは遅かった。
「それに、周りを牽制したかった。今となってはそれがどうして牽制になると思ったのかわかりません。こんな時代だから、誰でも簡易的なカメラは持っています。他の誰にも撮らせないような牽制になると思って、それはそんなはずがないのに。むしろ周りにそれが平気だと伝えてしまうのに。すみません」
痛みなんかわからないくせに、一丁前に痛そうな顔をする。私にだって彼にだって、あの子のことはわからないのに。
「もういい」
それしか言えなかったが、彼はそれ以降喋らなかった。
頭が痛い。確かに倒れて私は頭を打ったのだろう。目をつぶる。浮遊感がある。あの子は大丈夫だろうか。
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