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1944年の9月1日。
私があなたの写真を撮った最後の日でした。
今で言う戦場カメラマンとしての第一歩は、兄であるあなたの空を見据えた姿を撮ることでした。
幼き頃より気弱だった私が「大丈夫?」と声をかけると決まって
「あぁ」
と、ひと言呟くだけでしたね。
ですがあなたが家を発つ寸前、いつものように「大丈夫?」と声をかけると
何も言わずにただ頷くだけでした。
頷いた後の眼は私を一瞬だけ捉えると、そのまま視線の先は私の頭上を通り過ぎ、青く澄み渡っているはずの煙で薄汚れた空をただただ見つめていました。
私は何も言えず、その姿を土と汗に塗れた指でシャッターを切ったのです。
兄よ。
あれからいかがお過ごしでしょうか。
お身体に差し障りはありませんか。
私は今、スマートフォンというカメラで、土にも汗にも泥水にも塗れていない指先1つで写真を撮り続けています。
兄よ。
今、カメラを通して見える先には、あの時のあなたと同じくらいの青年が笑顔で立っております。
孫や曾孫は立派に育ちました。
血筋は争えないのでしょう。
何処と無くあなたの面影が写ります。
もしここにあなたが居たのなら、あなたは笑うのでしょうか。
哀しい眼で薄汚れた空を見ることなく、青空の下で満面の笑みを見せてくれるのでしょうか。
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