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目が覚めると白い天井が私を迎えた。左肩から腕まで、それと右手の甲が熱を持っているような違和感がある。
「病院だ」
痛みの無い右肩を支点に腕を上げてみる。右手に包帯が巻かれていた。きっと左肩も同じなんだろう。
「おはよう」
ベッドの隣から声が来た。努めて疲れを隠すような声。
「気分は? 先生を呼んで来るから」
「待って、荒太さん」
席を立とうとするその人を呼び止める。
「……ここに、居て欲しいです」
動く右肩を使って、彼に手を伸ばす。その手が震えた。すぐに手を引き戻していた。
痛みじゃない。意図した訳じゃない。反射的に手を戻していた。
理由にはすぐに思い至った。
手が、体が、いつまた血を流すかわからなかった。無意識に手が体から離れるのを嫌がった。何か意味があるわけじゃない。だって何の前触れもなく、肩に傷は生まれたから。それでも私が感じられる範囲に手を置いて起きたかった。
私のところへ戻ってくる手を荒太さんが掴む。止められてしまうのが恐いのか、私は更にその手を自分の近くへ引き寄せた。荒太さんの手はそれに逆らわず、そっと私の手を包んだまま付いて来る。
荒太さんはナースコールを使った後、そのまま私の隣に居てくれた。
お医者さんが来て色々と対応してくれた後、検査の準備とかでまた慌ただしく人が履けていく。
その後で、また荒太さんの手を掴んで勝手に引き寄せる。
「一週間も寝てたんですね」
実感がわかずぼんやりと返す。
「その、大丈夫だから」
「大丈夫? ですか」
はっきりしない言い方に、私は問い返す。言葉だけでもちゃんと聞いて安心したかった。
「一週間、何も無かった。怪我は増えてない」
「そっか。じゃあ、確かに大丈夫ですね」
言って、でも手はまた私の体に寄せられて、格好がつかない。
「今日は、行かなくていいんですか?」
「……どこに?」
荒太さんが言い淀むのはわかった。でも、ここに居てくれるなら踏み込んでもいいとも思う。
「赤葦さんの所です」
「もう、あのファミレスに行くことはないな」
「そっか。良かったです」
ほう、と息を吐く。
「見ていて、放っておけなかったんです。私と居ても私だけを見ては話してくれない。正直、怖かったです」
思い出しても初めてファミレスで荒太さんを見た時は、驚いたし、怖かった。
今にも泣き出しそうな表情で、荒太さんはずっと話していた。一人で向かいの誰もいないスペースに向かって。最初はどうするか迷ったけれど、見ていられず私は一人分しか聞こえない二人の会話に飛び込んだ。
「だけど、今は私だけを見て話してくれるので。体を張ったかいがあったというものです」
言うだけ言ったら、また眠気が襲ってきた。すこし頑張って話しすぎたかもしれない。
「それから、さん付け、やめてください」
私は荒太さんの手を掴んだまま眠りにつく。
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