プロローグ

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プロローグ

 「事件ですか事故ですか?」  1秒でも初動を早くしようと、電話の相手は口早に尋ねてきた。釣られて私も一刻も早く状況を説明せねばと焦るが、息が上がって呂律(ろれつ)が回らない。 「あ、もしもしえっと、家庭内暴力なんですけど、(らち)が明かないんで来てもらえますか?」  咄嗟(とっさ)によく便利な言い回しが口をついて出たものだと自分でも感心する。  ……家庭内暴力。物は言いようである。なぜならつまるところ、ただの兄弟喧嘩だからである。  けれども第三者から見ればクソほどにくだらなく見える事件でも、当事者にとっては生き死にに関わるほど根が深くなってしまっているものもある。なんといっても殺人事件で最も多いのは、親族によるものなのだから……。
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