目玉が見てる

12/15

34人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 車は飯島さんのバンと寧々の車2台で行った。寧々の車にも少し荷物を積んであるし、明日早速マンションから出勤しようと思っているからだ。鍵を不動産屋さんから受け取ってマンションに行く。白いドアを開けると、排水口から匂ってくるであろう水のすえたような匂いが鼻についた。途端にこの前見た目玉を思い出す。だが、あれは不動産屋のお兄さんが確認してくれたし、目の錯覚だったはずだ。そうだ、ホームセンターに買い物に行くとき、排水口の匂いとりを買ってみよう。洗濯機パンから匂ってるのは間違いないんだから、寧々はまた排水口の中を覗き込んでしまった。  ギロリ、ギロリ。目玉がこっちを見ていた。 「きゃああああああああ」  叫び声をあげる。外で荷物を運んでいた彼氏が慌てた様子で部屋に入って来た。 「どうしたの?」 「め、目玉」 「えっ?」 「ここ、排水口の中、見てみて」  寧々はブルブル震えながら排水口を指す。 「何にもないぞ」 「何もないって、ほんと?」 「うん」  彼氏は寧々の身体を抱き寄せてくれた。でも震えは収まらない。気のせいなのか。この前見ちゃったから過敏になっていて無いものを錯覚してしまったんだろうか。そうだ、目玉があったら、誰かがとっくに気付いていたはずだ。そう思ってはいても鼻にはすえたような匂いが纏わり付く。 「臭くない?この部屋」  目玉は見えなくても、寧々の勘違いだったとしても匂いは気が付くだろう。明らかな異臭。水が腐ったような。 「ああ、ちょっと匂うな。でも、誰も住んでなかったんだから、溜まってた水が腐ったんだろう。住めば気にならなくなるよ」  そうだろうか。彼氏に言われるとそんな気がしてくる。年上で頼りになる晴彦さん、会社でもみんなが尊敬する上司。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加