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 「おじいさん、大丈夫ですか?」  浩二はそう言って、それから間を置かずに、「やっぱり、座ってください」と席から離れようとした。しかし、おじいさんは、いかつい顔をこちらに向け、「大丈夫だと言っておるだろ」と返した。浩二は思わず、背筋がぞくっとした。  まさかここまで面倒なことになるとは、思っていなかった。座っておけばいいのに、こんなに妙に意地を張られては、どうしようもない。  だが、ここで引くわけにはいかない。ここで折れてしまえば、スベるというか、ダサいというか、とにかく絶対に駄目なのである。もうすぐ彼女でなくなるかもしれない彼女が見ていれば、なおさらだ。  「ほらアンタ、もう座らせてもらいなさいよ」  おばあさんがため息混じりにそう言った。  「いや、儂は立てる」  「座っていいですよ、おじいさん」  浩二も駄目押しで言った。すると、おじいさんはこちらを睨みつけて、「ダイジョウブだ!!」と、声量を上げて宣言した。浩二は思わず「すみません」と言いそうになったが、かろうじて堪えた。  車内に、次の到着駅の名前がアナウンスされる。浩二はふと、彼女の方に目をやった。彼女はいかにも居心地が悪いといった風に、眉をひそめている。このままではいけない。浩二は次の手を打った。  「おじいさん、無理しないでください。僕らはあと二駅で下りるんで、あの、そう、さっきのアナウンスの駅の次です。なんで、どうぞ、座ってください。本当に、大丈夫なので」  浩二は例の笑顔を見せて、そう言ってあげた。するとおじいさんは、こちらの目を見て言った。 「儂らも、あと二駅だ」  浩二の笑顔が、大きく崩れた。
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