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 そのとき正雄は、見逃さなかった。青年の笑顔が一瞬消え、嫌悪感に溢れた表情が、姿を現すのを。  電車が停まり、扉が開く。乗客が数人追加されるのを横目に、正雄の心は、燃えたぎっていた。  この若造には、老人に対するおせっかいな気遣いすらない。儂もトメ子も、心のある人間なのだということを、知らないのだ。  さしあたり、隣の若い女の目を気にして、格好をつけているのだろう。そしてそのためには、儂の名誉などどうでもいいという理屈だ。すなわち、調子に乗っておる。  「ほんと、すみません。この人が……」  トメ子が若造共に、そう優しく語りかける。それを見ると、正雄の怒りはますますヒートアップした。  「トメ子、止めろ!そいつらと喋るな!」  正雄は慌ててそう言うと、トメ子を無理矢理席から引き離し、肩を抱いた。  「ちょっと、何よアンタさっきから!」  「ああ、まあまあ、落ち着いて……」  「何だ君はさっきから!こっちがいいと言っているのに……」  「止めなさいよあんた、見られてるわよ」  「うるさいっ、関係ない、そんなもの!」  「何言ってんのよ、ホントにもう、すみません」  「謝るなあ!」
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