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 それからしばらくして、みんな気を扱えるようになった頃、黒田先生がある課外授業を考えた。  それは、実際に魔物と闘ってみろというものだった。  湖浜高校の西にある江西連峰という場所に行くことになり、電車で山の入口の最寄り駅まで向かった。  山の標高はそんな高くなく、日帰りで登れるような所なのだが、ちょっとうっそうとしていて、最近は魔物が住み着いていると噂になっている。  山の麓に着くと、くじ引きが引かされ、二人一組でくじの番号順に登って行くことになった。  五分くらいの間隔で黒田先生が番号を呼び、地図と式札を渡されて山に入っていく。  清弥は六番目で、少し待つ時間があった。  独りでぶらぶらと歩き始めると、みんなから少し離れた所で福島が独りで切株に座って山を見つめているのが目に入り、そっちに方向を定める。    福島は近づく気配に気づき、山へと固定していた顔を動かす。 「何番目だった? 私は六」  清弥が福島に歩を進めながら話しかける。 「俺は七」 「そっか。じゃぁ、何かあったら助けにきてね」 「ペアと協力しろよ」 「わかってるって。冗談だよ」  清弥は福島の隣に座って同じように山を見つめた。 「山、何かあるの? 何か見つめてたけど」 「ん? 魔物がわんさかとな……」  それを聞いた清弥の顔がくもる。  それを見た福島が笑う。 「冗談。冗談の仕返し。  まぁ、本当にいると思うけど、ここからはあまり強い魔力を感じられないから大丈夫じゃない?  あいつもいちを先生として生徒の安全を考えてると思うよ」  と黒田先生の方をあごでしゃくった。 「うーん……」  今までの特訓のことを考えると、危険性がかなりある気がする。 「この山は人が歩くための道がちゃんと整っているから、幼児でも登れる。  道をはずさなければ、何かあっても走ってすぐに下りれるよ」 「そっかぁ。  そういえば、福島君の家はこの辺り? 電車、西方面だから――」 「うん。俺の家の最寄り駅はそこだよ。  けど、俺の家は海の近くだから、ちょっと遠い。自転車で30分くらいかな」 「へぇ。毎日大変だね」 「鍛えてるから大丈夫だよ。とばせば十分で着ける」 「なるほどね。さすがだね」 「まあね」  福島は笑顔になると、また山へと目を向ける。 「やっぱり、結構この山登ったの?」 「うん。遠足とか特訓とかいろいろと来てるよ。最近は全然来てなかったから、何だか懐かしい。  黒田先生(アイツ)とも一緒に登ったことがあるけど、まだ小学生前の俺を全然助けてくれずにどんどん先に行くから、俺はベソかきながら必死についていったって思い出とかね」  正隆は苦笑いして、湧き出てくる家族との楽しかった思い出を振り払い、今に集中しようとしていた。 (今は感傷に浸っている場合ではない)  パンッと膝を叩き、立ち上がる。 「そろそろ向こうに戻っておこうか」 「そうだね」  二人は一緒に黒田先生いる近くに戻った。  最近はもう二人が一緒にいることに口を挟むものはいなくなっていて、ただの友達であると理解してくれている。  けど、中にはそれを理解できないものもいるようで、陰口をささやいていた。  その中の一人が小西雪奈で、その彼女も清弥と同じ六番で――、 六番目が呼ばれて槍を持った清弥と弓矢を持った小西が顔を合わせた時、二人とも明らかに嫌な顔をした。  黒田先生はそんな二人に気づかぬか、たんたんと説明をしていく。 「式札を渡すから、岩の上に置いて戻ってきて。置けば、私に戻ってくるようになっている」  地図上の山頂の手前にある岩の場所を指さすと、地図と式札を小西に渡す。 「じゃぁ、気をつけて。道をはずさないように。狐とかが壁を作って違う道に誘い込むこともあるからな。  まぁ、道には目印の赤い紐が結ばれているから、その道なりに行くように」  二人は無言のまま山に入った……。 「……ねぇ、加藤さんは愛しの正隆とじゃなくて私とで嫌でしょ?」  しばらく歩いていると小西が話しかけてきた。不敵な笑みをたたえて。 「そんなことないよ」  清弥はそんな小西の顔を見たくもなく、前だけを見つめて足を速める。 「ふーん。  もう、隠すのやめたら? 堂々と好きです、付き合ってますって公言したら?」 「そんなんじゃないって、言ってるでしょ!」  清弥は切れて振り返った。 「この山登りを楽しくしようと、ちょっと茶化しただけよ。バカみたい。  加藤さんなんかが福島君とは付き合えないってわかってるわよ」 「やっぱり、小西さんと協力するなんて無理だ」    小西に馬鹿にされて怒り狂いたい自分を抑えて、清弥は独りでどんどん歩きだした。  陸上部で鍛えられた健脚に小西は追いつけず……というか追いかける気もなく、二人はどんどん離れる。 「本当、バカね。地図と式札は私が持っているのに」  雪奈は地図にじっくりと目を通して、ゆっくりと歩き続ける。  清弥は赤い紐を頼りに歩いていった。  頭が冷えてきて、地図だけでなく式札も小西が持っていたことに気づいたが、岩の前で待っていればいいかと考えて足早に進む。 「こっちで大丈夫だよね……?」  二回目の分かれ道を通り、だいぶ歩き進んだ頃、清弥は心配になってきた。  結構早いペースで進んでいるのに全く五番目の組に追いつかないし、戻ってくる組にも会っていない。それに、二回目の分かれ道を過ぎてから、次の赤い紐がなかなか出てこない。 「さっきの分かれ道まで戻ってみようか……」  清弥はもと来た道を引き返し始めた。  一方、雪奈は戻ってきた一組目の男子二人と出会っていた。 「あれ? ペアは?」   「先行った。バカよねぇ」  雪奈は地図と式札をひらひらさせて笑った。 「え、他に独りで歩いているのは見かけなかったよ」 「もしかして、道外れたんじゃ……。ヤバくね……?」 「え、まさか……」  雪奈は笑顔を引きつらせる。 「けど、むやみに探しに行っても危険だろ?」 「うーん。とりあえず、俺らは戻って先生に報告しよう。  小西さんも一緒に戻る?」 「うーん……、そうね。その方がいいかもね」  雪奈と男子二名は小走りでの下山を開始する。
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