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 清弥は道を戻っていたが、なかなか分かれ道にたどり着けずにいた。 と言うより、同じ所を回っているようだった。 「狐にでも化かされたかな」  怪しいところはないか注意深く目を凝らし、速足をやめて歩を緩める。  二人の男子と共に足早に下る雪奈は、手に持っていた式札を握りしめていた。  ふと、雪奈はあることを思いついて立ち止まった。 「どうした?」  小西が止まったことに気づいた男子が声をかける。 「もしかしたら、式神で助けれるかも――」  雪奈は式札を見つめると、念じ始めた。  けど、なかなか動きはしない……。 「小西さん、式神使えるの?」 「お母さんが奇術師だから多少は、ね。そこまで術力ないけど……。  ちょっと集中してみる」 (……動けっ……助けて………お願いっ)  雪奈は目をつむり、式札に心の中で呼びかける。 「なぁ、無理だよ。早くい――」  男子がきびすを返して行こうとした瞬間、式札がぴくりと動いて宙に浮かんだ。 (お願いします……加藤さんのところに連れてって下さい。助けて下さい!) 「え、動いた‼」  男子が目を見張り、雪奈は目を開けた。  浮遊した式札が山を登っていく。  雪奈は、ふわりと飛んでいくそれを追いかけだす。 「おい、待て。危険だって」 「先に下っといて」  雪奈は手を振り、式札についていく。見失わないよう必死に。  その時、七番目の福島のペアがやって来た。 「どうしたんだ?」  一番目の男子が説明をすると、正隆は自分のペアに一番目の二人と下るように言い、「自分は女子を独りで行かせたくない」と言って小西の後について行った。  清弥は道の途中で変にぼやけている部分を発見した。  けど、どうしたらよいかわからない。  とりあえず、気を集中して、エイッと槍で突いてみる。  「ケーン‼」  もやは消えた。  が、甲高い叫び声と共に何かがもの凄い速度で清弥の周りを回り出した。    清弥はその真ん中で槍を構えて集中し、突くタイミングを伺う。  「今だ!」   意を決し、槍を前に突き出す。  「キャイーン‼」  何かを引き裂いた感じがし、影はまた甲高い声を出して回るのを止めた。  しかし、清弥は再度力を込めて槍を握って構える。  止まったかと思ったそれは高く跳ね――清弥の方に覆い被さるかのように跳んできたのだ。  跳んだ影は清弥の頭上に達し――。 「避けろ!」  声がして、清弥は飛び退く。  矢が影に飛んできて、当たった。  影は甲高い声を出し、じたばたともがく。  その時、小さい蝶みたいなものがシュッと影に飛んでいき、ギャアという声が響いた後、静かになった。  静かになったものに清弥が近づいて見ると、それは大きな狐のようだ。 「妖狐かもな」  と福島が言い、小西と近づいてきた。 「ありがとう」  二人が助けてくれたことに気づいて、清弥は頭を下げる。 「俺は何もしてないぞ。小西さんが頑張った」 「ほっといたら、私が非難されるじゃない」  小西は清弥の前を通り過ぎて妖狐のそばに向かう。 「式神が言うことをきいてくれたから良かった。式神に感謝しなくっちゃ」  さっき飛んできた蝶は式札だったようだ。  妖狐に突き刺さった式札に向かって小西が手を合わせた。 「早くここから出よう」  正隆が女子二人に呼びかける。 「もしかしたら、この山の主かもしれない。だとしたら、山が俺たちに怒ってくるかもしれない」  女子二人は頷き、三人は登山口目指して走り出す。  下り道は、やはり山の怒りをかったのか、小さい魔物や狸の化かしに遭遇し、それらと格闘しながら進んだ。  すれ違う組には注意喚起をし、早く戻るように勧める。  無事に登山口に着いた時には、思わず抱き合う三人。けど、恥ずかしくなってすぐに離れ―― ガンッ、ガンッ、ゴツッッ‼ 「おまえら、何やってたんだ!」  山の怒りよりも怖い黒田先生の怒りのゲンコツが三人に与えられた。 「ってぇな。加藤が迷ったのを助けに行ったんだよ」  正隆は口ごたえをし、なんで俺だけゴツッッなんだよと文句もたれる。 「自分のペアじゃないのに?  今回はペアと行動し協力することを主旨としていたのに」 「そんな主旨だなんて知らねーよ」 「で、何で加藤は迷った?」  黒田先生はむくれる福島を無視して、清弥に詰め寄る。 「すみません。独りで先に進み――」 「あの、私が、加藤さんに嫌いだから先に行けと言いました。だから……」  清弥をかばうつもりか、小西が事実とは違うことを言い出し、清弥は驚いた。 「そうか。いかなる理由があろうと、ペアで行動するべきだった。  集団で闘う時は、どんな相手であろうと協力しなければならない。  今日はその訓練だ。どんな状況でも協力し、最高の力を出せることが大事なんだ。最高の気の力を出すのには、周りに左右されず心を合わせることが重要になる。  だから、どんな時でも、協力する必要がある時にはしなければならない。  わかったな?」 「「はい‼」」 清弥と小西が答え、福島がふてくされぎみにうなづいた。  黒田先生はその場を離れて、式札の回収や山に残っている生徒を護るための式札を飛ばしたりし始めた。  清弥を助けた式神も、もしかしたら黒田先生の念が届いたものだったのかもしれない。 「ありがとう」  清弥は小西にもう一度礼を述べる。 「全く、バカのせいで大変だったわ」  小西が相変わらずの悪態をついてきたが、朗らかに笑っている。 「うん。迷惑かけてごめん」清弥は手を出した。「けど、これから一緒に闘う時にはちゃんと協力するから、よろしくお願いします」 「うん……。よろしく」  ためらいながらも小西が手を握り返す。それから放すと、戻っているいつもの仲間の方に向かって行った。  清弥は去っていく小西の後ろ姿を見ながら、協力することが大事と繰り返す。
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