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清弥は練習を終え、着替えて教室に向かった。
朝練前と違って学校は騒がしくなっている。
清弥のクラスもそうだ。清弥が入っていっても誰も気づかずワイワイと――
「ちょっと、加藤さん!」
いつも話しかけられもしないのに、あまり清弥と関わらない女子――小西雪奈が近寄ってきて、清弥は顔をしかめた。
清弥は小西の濃い紅とお香のキツイ匂いが特に苦手である。
「石田先輩とどういう関係なの?」
「え? 部活の後輩と先輩だけど?」
何でそんなことをわざわざ聞いてきたのか、清弥には何となくわかるが、迷惑この上ない。
「ふーん。そうなの?」
「そうだけど。石田先輩は陸上部の先輩だけど?」
朝練で石田先輩と話しただけで変な妄想を勝手にされて、因縁をつけるのは、ホントやめて欲しい。
石田先輩の優しさで、こういう犠牲を度々被る清弥は嫌気がさしていて、つっけんどんに返す。
「あそう。どうも」
小西はそう言うと清弥から離れていった。
清弥は教室に敷き詰められた畳の上を歩いて窓際の一番後ろの席に行くと、槍をかかえたまま正座をしてため息をつく。
清弥は小西が苦手だが、そもそも集団生活が苦手で――基本独りであり――友達作りはめんどくさいと感じていた。
始業の鐘がなると先生が教室に入る。
が、今日はもう一人ついてきて――
清弥は壇上で先生の隣に立ったその人を見て目をみはった。
それは、さっき校門で清弥が不審者扱いをした転入生⁉
「福島正隆です。よろしくお願いします」
福島は一礼して周りを見渡すと、先生の支持で一番後ろの廊下側の席に向かった。
清弥は一瞬福島と目があったような気がしたが、福島が顔色を全く変えずに席に座ったのをみて胸をなでおろす。
内心、あの校門での態度はやり過ぎだったのではないかと少し後悔していたのだ。
先生が点呼をとり、一時限目の座学が始まる。
思わぬ転入生に生徒がざわめいていたが、先生は静かにと適当に言うだけでいつも通り授業を進めていく。
一時限目が終わると、福島の周りに生徒が集まる。女子が何だか色めきたっている。武術科の女子は、強い漢が好きなのだ。武術に優れ、容姿も良い石田先輩は最強だが。
次の授業は昼食まで武術で、道衣に着がえたりと準備が必要で、清弥は早く支度しようと人だかりに構わず独りで直ぐに教室を出る。
武術の時間は三限にわかれていて、
一つはさまざまな武術の基本や乗馬、水泳を日替わりで習い、
一つは得意分野別…剣術、体術、槍術、弓術を…清弥は槍を習い、
一つは総合手合わせだ。
総合手合わせでは実戦の時を考えて異なる分野同士闘う。
格闘方法は何でも良いのだが、授業の一貫のため、刀は木刀、槍は先を布でおおったり、矢先は吸盤だったりを使う形稽古だ。
清弥は総合手合わせの時間に福島の武術を見た。
彼の分野は体術だったのだが、気迫の力が強く、それだけでかなり相手を圧倒している。
福島の相手は学級長、伊藤久廣。素手の福島に対し、木刀を持っている。
新入りと学級長の試合にみんな期待して見守る。
試合が始まると学級長が素早く木刀を振りかざす。
が、福島の動きも早い。
伊藤の木刀を薙ぎ払い、右腕を掴む。そのままひねって押し倒し――、
頭めがけて拳を振るい落とす瞬間、審判の「ヤメ」の声がかかって、福島の勝ちが決まった。
福島はまたみんなの輪に囲まれる。
けど、あまりうれしそうな顔はせず、話しかけてくる周りにただ相づちをうって「ありがとう」と言うだけ。
そんな素っ気ない福島になぜか女子達は男らしいと好評である。
その輪には入らなかった清弥の前を、伊藤が通り過ぎて行く。
「ふん。僕に勝ったからって、いい気なもんだ。生徒会長の大谷さんなんかには、絶対勝てないんだから」
と、ぶつくさ言いながら。
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