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その日の昼、清弥は学校の裏手にある川沿いの土手に向かった。
外は相変わらずの曇天だが、雨は降っていない。
清弥は最近、教室内の冷たい目線に耐えづらく、昼は外――大概この土手に弁当を持ってきて食べている。
清弥がいつもの場所に行くと、後から客がきた。
「よっ」
客は清弥に気づくと、挨拶してきた。福島だ。
清弥も「よっ」と挨拶すると、福島は隣に腰かける。
福島は清弥とは逆に、熱い視線と集まってくるギャラリーから逃げるためにたびたびここに来る。
しかし、今日は違うようだ。
福島は息を切らせている。いつもはそんなに慌ててくることはない。
「全く、何なんだ、アイツらは!」
福島の言葉に清弥は疑問を持ったが、福島の息が整うまで待つ。
「実はさ、加藤にやってることイジメじゃねーのって、いつも集まってくるヤツに言ってみたんだ」
「え?」
息が落ちついた福島から出た解答は意外なものだった。
「そしたら……、私たちを悪者扱いした! 名誉毀損で訴えてやる! アイツの味方するのか! やっぱり、オマエはアイツとできてるんじゃねぇのか!
ともの凄い形相で迫られた」
「ふふ……で、逃げ出してきたの?」
清弥は荒れ狂う女子達を想像して、笑う。
「おい、本当は加藤の問題なんだからな。笑ってる場合じゃないよ」
と言う福島も笑っている。
「本当にヤられるかと思ったよ。みんな手に手に武器持ってたからな」
「まぁ、福島君なら、本気だしたら、負けないでしょ?」
「まぁな。女には手出したくないからな。それと、女を泣かせくない」
「えらいねぇ」
どこか他人事な清弥に福島はため息を吐く。
「泣かせたくなかったのは加藤のことだよ」
何か言いたげな清弥に福島は手を出して静止させる。
「女として扱うなっていうのはわかっている。
ただ、加藤は苦しさを隠し過ぎている。見ていて辛かった。助けたかったけど、加藤はそれを嫌がるだろうし……」
「そんな、私、苦しくなんか…」
「加藤は誰にも頼らないし、弱音も吐かない。強いと思う。けど、人は頼り頼られて生きていけるものだよ。
昔の強い武将は人を助けたり、助けられたりして生き延びて、弱音をはけるほどの信頼できる相談相手がいたものだ」
「そっかぁ」
「まぁ、上手く人を利用できる強さも生き抜いていくには必要ってことかな。
加藤は今のままじゃ、自分で自分の首をしめているようなものだよ?」
「うーん…」
清弥は難しい顔をして、川の向こうを見つめる。
「とりあえずは、俺を利用してみなよ」
「え?」
思わぬ提案をした福島に清弥は顔を向ける。
「加藤が俺を利用してみて、他の同級生とも仲間になれればいいんじゃない?」
「え、いいの?」
「ああ。今のままじゃ、俺も嫌われ者のままだしな。加藤の評判がよくなれば、俺も生きやすくなるさ。
つまり、俺も加藤を利用しているとも言える」
福島がニッと笑い、清弥も笑顔になった。
「ありがとう。けど、人を利用するってどうすればいいだろうねぇ」
「そうだねぇ。まずは、一緒に教室に戻ってあげるよ。で、一緒に謝ってあげる」
清弥は福島の言い方に吹き出す。
「それって、福島君が謝りにいきたいだけじゃ?」
「だから、こうやって利用してみるの。利用方法の例だよ」
「なるほどね。
じゃぁ、その例を使わせてもらうよ。今から教室一緒に行こう」
清弥は拳を突き上げて立ち上がった。
福島もうなずくと笑顔で立ち上がり、二人は教室へと向かった。
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