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闇
暗い闇の中、小学生の清弥は泣き叫んでいた。
「いやぁー! 出して! ここから出して!」
「泣くなら出さん。いつもすぐ泣きおって……。
加藤家を継ぐ者として恥ずかしい」
父が清弥のいる蔵の戸を閉じて去っていく。
「お父ざぁん、ごぉめんなざあい~! ながない゛がら、だぢでぇ~!」
清弥は泣くのを止たかったが、暗闇が怖くて止められない。
涙が出ないように、ギュッと目をつぶる。
目を開けると、小学校の運動場にいた。
「やい、加藤!」
「なによ!」
バンッ!!
清弥が声のする方に向いた瞬間、腹にボールが投げこまれ、清弥はその場にうずくまり、吐く。
「アハハ。うぇー、きたねー」
怒った清弥は転がったボールをつかんで投げかえそうとする。が、その場ではやし立てていた者達はあっという間に走って逃げ出した。足の早い方だった清弥は逃げた者にすぐ追いつく。のだが――
清弥が追いつきかけた時、何かが飛んできて、チクリとさした。イガクリだ。
「きたねー、来るな! 汚いのが移る」
茶色いイガイガがどんどん投げつけられ、清弥はボールを投げ返すと逃げ出した。
ボールは彼らには当たらず、嫌な笑い声が響き続ける。
「強くなりたい。強くなりたい。強くなければ……」
清弥は呪文のようにそうつぶやき続け、走り続け――
道場にいた。稽古をし続ける。繰り返し繰り返し……。
いつの間にか中学生になり、稽古をし続けている。
もう、弱い女の子は捨てていた。恋愛、美容、ファッションには興味もない。
中学生になると、女子は好きなイケメン有名人の写真やポスターを集めてキャーキャー言っていたが、清弥は当時、武術大会で最強だった人のポスターを士気を高めるために貼り、一心不乱に身体を鍛え続けた。
「強くなるんだ。強くなるんだ。強くなるんだ……。強く。強くならなければ……」
「はっくしょん」
清弥は盛大なくしゃみをして目覚めた。
夏休みがもう近づいていたが、相変わらず肌寒いまま。
宮中が打ち出した救出作戦は成功したものの、人さらいは防げずに続いていたため、状況はなかなか変わらず、そろそろ公にこの状況を伝えないといけないようだった。
人さらいは日国の最新鋭の無人機で行われいたため、防御術で対応できずにいた。
今日は、清弥の学校と部活は休み。
清弥は暗い部屋を見て、二度寝して今度は良い夢を見ようかと思った。
けど、時計をみて驚いた。もう八時を過ぎている。いつも五時起きの清弥にはだいぶ遅い。
最近は日光にあまり浴びれないせいか、気分も憂うつになりやすく、嫌な夢で起きた日には特に暗い気持ちになる。
清弥は気合いを入れて床を出ると、心の闇を追い出すかのように体を動かし始める。
槍を持って何回か宙を突いてすっきりしてから部屋を出た。
家族はもう出かけていて、誰もいない。
清弥も道場に練習しに行くため、身支度をして家を出る。
道場での練習時間は自由だったから、清弥は近所の鷹匠のお爺さん、タカジーの家に寄ってみる。
タカジーの家に行くと、タカジーと一羽の鷹が庭にいた。
「タカジー、おはようございます」
「お、清弥ちゃん、おはよう」
タカジーがシワのある顔を余計しわくちゃにして挨拶を返してくれた。
「すばる?」
清弥はタカジーが何羽か飼っているうちの鷹の名前を当ててみせる。
「さすがだねぇ。飛ばしてみるかい?」
タカジーが清弥の腕に手袋をつけて、すばるを腕に乗せる。
すばるは清弥が触っても動ぜず、おとなしく撫でられる。
腕を前に出すと、すばるは飛び立ち旋回し、「キュイーン」と一鳴きして、舞い戻ってきた。
清弥はタカジーから渡された餌をすばるに渡し、再びなでる。
自然と笑顔になる。
この瞬間が清弥にとって癒される一時なのだ。気分が落ち込む時にここにくると元気になれる。
「最近は暗いねぇ」
タカジーが空を眺めながら清弥に話しかけてくる。
「こう暗いと気分も落ち込みやすい。けど、そんなものに影響されちゃだめだ。自分の芯をしっかり持たなくちゃ」
「……そうだよねぇ」
気持ちを見透かしたようなタカジーの言葉が胸に刺さり、清弥はうつむく。
「まぁ、なかなか難しいがな」
カッカッと笑うタカジーが、次の瞬間には神妙な面を作る。
「闇に覆われても、自分の心の火を灯し続けるんだ。
周りが闇だからって、自分で自分の火を消して闇となることはない。むしろ、火を明々と燃やし、闇を追い払ってやればいい。
つまり、闇にやられるのも追い払うのも自分次第だ。
清弥ちゃんなら追い払えると願うよ」
「うん……。ありがとうございます。じゃぁ、そろそろ行きます」
清弥は鷹と手袋をタカジーに返して庭の外へと向かう。
すると、タカジーがちょっとと、呼びかけてきて、
「今、闇がはびこってきている。これからもっと闇が迫って来るかもしれない。頑張れよ。
まぁ、辛いときはいつでもここで休んでいってくれ」
と言うなり、ウインクをして手を振ってくれた。
清弥は笑って手を振り返し、道場への道を急いぐ。
気持ちは前向きになっていて、足取りは軽くなっていた。タカジーの有難い言葉に感謝の気持ちでいっぱいだった。
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